独断で言わせてもらえればチームとして「勝利への執念」が相手より足りなかった試合ではないか。後付けでなくイヤな予感がしたのは7回、渡辺雄大が村上宗隆に被弾した場面だ。阪神が勝っていても今後に向けてのポイントはここではないかと思っていた。

2点リードで迎えた左の長距離砲。左腕ワンポイント渡辺の仕事は何か。言うまでもなく抑えることだ。そのための登板である。当然過ぎるほど当たり前。だが、そこでさらに重要なポイントもある。それは「打たれない」ことだ。

「左のワンポイントは左の強打者を抑えるのが仕事。だけどカウント次第では歩かせることも考える必要がある。そうすると、その投手の給料は上がらないかもしれない。でもチームの勝ちのために、申し訳ないけれど、そういう選択をしてもらう場合もある」

この考えは現役時代、正捕手として2度の優勝を経験した矢野燿大のものだ。言うまでもない現在の指揮官である。それを知っていたので、ここはどうするかなと見ていた。そして渡辺は村上を2球で追い込む。これは勝負か。1球外れる。カウント1-2。次はどうだ。そう思った瞬間、外角高めに投じたスライダーを左翼席に放り込まれてしまった。

岩崎優が9回に打たれたのはある意味、仕方がないと思う。抑え投手が敵の主砲を歩かせていては話にならない。それで言えば延長11回の石井大智は、やはり、歩かせることも念頭に置いてもっとしつこく勝負してほしかったと思う。

「継投ミス」と言われるかもしれない。先発ガンケルは6回を終え、72球。村上も右飛、捕邪飛に切っていた。村上から始まる7回を任せてもよかった気はするが、そこはブルペン陣で逃げ切ろうとしたベンチの策。外野からどうこう言っても仕方がない。それよりも渡辺と梅野隆太郎のバッテリー、あるいは阪神ベンチが「対・村上」でどういうビジョンを持っていたか。それが気になる。

それにしても7回から3打席本塁打という離れ業は見たことがない。完全に怪物に食われた格好。ヤクルトにすれば優勝決定後に間違いなく「あの試合」と挙げるものだろう。

それでも思うのだ。“球宴”ではないと。奇跡を起こすと言って臨んでいるシーズンだろう。もっと、いやらしく貪欲に勝ちへ向かってほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対ヤクルト 11回、村上に勝ち越しの左越え2点本塁打を打たれがっくりとベンチに戻る石井(撮影・前岡正明)
阪神対ヤクルト 11回、村上に勝ち越しの左越え2点本塁打を打たれがっくりとベンチに戻る石井(撮影・前岡正明)