勝利のカギは糸原健斗の「走塁死」にあり。そう言うと笑われるかもしれない。だが5回、同点にするキッカケになった佐藤輝明の盗塁をはじめ、試合を通じて感じられた積極的な姿勢はこのプレーが呼んだのでは…と少し思った。

1回1死から2番スタメンの糸原が左中間に安打を放った…と思う間もなく敢然と二塁を目指すではないか。ボールが戻り、楽々と二塁で憤死。だが序盤ということもあり、ベンチに「やってしまった」感は漂っていなかったと見る。

4試合ぶりスタメンで血気盛んだったか。一気に盛り上げたかったか。判断は難しいが、とにかく糸原は刺された。「積極的なミスは責めない」という指揮官・矢野燿大にしても「それはない」と思うタイミングだったかもしれない。

しかし、これを契機にこの日の阪神は仕掛けた。3回2死から四球で出た中野拓夢が走り、刺される。さらに4回1死から近本光司が4番・佐藤輝明の初球にスタートを切る。抜群のタイミングだったがここは佐藤輝がファウル。

4回まで阪神は仕掛けようとしたものの成功していなかった。それでもめげずに1点を追う5回2死一塁から一走・佐藤輝が盗塁。ついに成功し、それが同点劇につながったのだ。

この中野や近本、さらに佐藤輝が「行くぞ」と決断できる背景には糸原の暴走気味チャレンジがあったかもしれない。11月には30歳になる糸原は31歳の梅野隆太郎と並び、現在のチームでは年長の部類だ。かつてのキャプテン、その必死で野球に取り組む姿勢はみんなが見ている。

以前に広島3連覇監督の緒方孝市(日刊スポーツ評論家)が指摘していたが“足攻”が売りの阪神なのに広島戦で盗塁数が少ない。この日の佐藤輝でカード11個目の盗塁。DeNA戦の10個に次いでワースト2位だ。しかし前日も近本、佐藤輝が決め、ここに来て走るようになってきた。

今季60勝目で借金1となり、残り20試合。全部勝てば80勝の大台だ。12球団最多だった昨季が77勝。120試合制だった20年は60勝、19年は69勝だ。全部勝つことはまずあり得ないが可能性だけは残った。

3位固め、そこからクライマックスシリーズ進出。これが虎党の最低希望ラインだろう。それでも、もう少し踏ん張って夏の名残を感じられる9月にしてほしいと願っている。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対広島 1回裏阪神1死、糸原は左前打を放ち二塁を狙ったが…(撮影・加藤哉)
阪神対広島 1回裏阪神1死、糸原は左前打を放ち二塁を狙ったが…(撮影・加藤哉)
阪神対広島 広島に勝利しタッチを交わす阪神の選手たち(撮影・加藤哉)
阪神対広島 広島に勝利しタッチを交わす阪神の選手たち(撮影・加藤哉)