今季限りでの現役引退を発表した福留孝介が阪神ベンチ前を訪れていた。20年限りで阪神を戦力外になり、古巣・中日に移籍。2シーズンで燃え尽きたが「やれるだけやった」という、いい顔をしていた。

福留が去った20年オフは能見篤史も戦力外でオリックスに移籍。さらに藤川球児が引退した。看板選手が同時に3人抜けた節目の年にもなっている。指揮官はもちろん矢野燿大。ある意味“つらい役回り”に当たってしまった。

「選手をもり立てて、いっしょに頑張ろうと言っているのに、その横でベテラン選手をどうするか考えるのは難しい」。そんな話をしたこともある。契約を決めるのはフロントだ。しかし監督も無関係ではない。来季、起用するかどうかの判断は当然、監督の意向が影響するからだ。

ベテランがいなくなり、若いチームになった阪神。和気あいあいとやっている様子だ。例えば佐藤輝明は新人だった昨年からバンダナ姿。阪神のような老舗球団では、以前はそういう少し崩すというかカジュアルというか少々「イキった」格好をするにはある程度、キャリアが必要だった。先輩の目があるからだ。

それがいいとかよくないとか「今どき何言ってるんだ」という話ではなく、そういうムードだったのは事実。もし福留がまだ阪神にいれば佐藤輝はバンダナを巻いていなかったのではと思う。回りくどいが要するに今の阪神には若手にニラみを利かせるベテランはいないということだ。

物事には両面がある。若手中心なら基本、明るく楽しい。好調ならイケイケで勝てる。だが雰囲気が重くなるとどうしていいか分からず、元気をなくしてしまう。それが今の阪神だ。本来、それを導くのは首脳陣のはず。だが正直、今はそういう感じでもない

そんな中で“雰囲気”を感じさせるのは糸原健斗だと思っている。アマチュア時代から厳しく鍛えており、年齢も上の方だ。その糸原が見せた4回の美技。1死一塁からA・マルティネスの三遊間を抜けそうな当たりに飛びつき、併殺に仕留めた。これで空気が引き締まったのは確かだ。

矢野は辞めるが選手には来季があるはず。個人的には糸原や梅野隆太郎、さらに大山悠輔を中心に、若手が厳しく明るく盛り上げていくチームになるべきだと思う。そんな姿が残り試合で見えてくるだろうか。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対中日 4回表中日1死一塁、糸原はA・マルティネスの打球を好捕し三ゴロ併殺に仕留める(撮影・上山淳一)
阪神対中日 4回表中日1死一塁、糸原はA・マルティネスの打球を好捕し三ゴロ併殺に仕留める(撮影・上山淳一)
阪神対中日 4回表中日1死一塁、A・マルティネスに鋭い当たりを打たれるも、三塁手糸原の好捕から併殺とし声を上げる西純(撮影・清水貴仁)
阪神対中日 4回表中日1死一塁、A・マルティネスに鋭い当たりを打たれるも、三塁手糸原の好捕から併殺とし声を上げる西純(撮影・清水貴仁)