これでは「名勝負」の値打ちがなくなってしまう。そんな気持ちでいっぱいである。甲子園がどよめいたのは2回。先発・藤浪晋太郎が日本選手最多本塁打「56号」がかかる村上宗隆に真っ向勝負を挑んだ。
フルカウントからの7球目、インハイの155キロ真っすぐを強振した村上の打球は右翼へのライナー。これを佐藤輝明がジャンプして捕球、フェンスにぶち当たる好プレーだ。登場人物3人とも大型選手。大リーグに勝るとも劣らない迫力ある場面だったと思う。
しかし見どころはここだけと言ってしまえば厳しいだろうか。藤浪自身が6回に自分の失策で失点し、結局、両軍がマークした得点はこの1点だけ。阪神はまたしても零封負け、そこに2試合連続の「1点差負け」も重なった。
「V逸決定」の前日も書いたが、今季ここまで見てきて拭えないのは阪神の勝負弱さだ。接戦ではなかなか勝てない。主軸に安定した打力があれば打者に期待し、安打を待つスタイルもあるが阪神打線の打率はリーグワースト。だからこそ足で攻めていく野球が必要不可欠になる。指揮官・矢野燿大が言う「超積極的野球」はそうしないと勝てない裏返しでもある。
この試合も象徴的だった。1回、中野拓夢、糸原健斗の連打で無死一、二塁。次は3番近本光司だ。前日の敗戦後も「より積極的にというところは必要」と、矢野は積極的な姿勢の重要さを強調していた。
だからこそ、ここもエンドランなどで動いていくかと思ったが近本は2球目を打ち上げ、左飛。場面は変わらず、アウト数だけが増えて意気消沈ムードだ。そして大山悠輔はボールカウント3-0から打って出て併殺打。「いける」と思って打っているのだから仕方がないが結果は最悪。この時点で「きょうも苦しい」と虎党も、さらにベンチも感じたのではないか。
6回に中野が二盗成功。7回には島田海吏が二塁で刺されるなど必死で動いたがなんというか仕掛けが遅い印象だ。マークされているのは当然として、もっと大胆にいかないと結局、自分たちが追い込まれるのにと思って仕方がない。
なにより選手任せでなく、ベンチが「ここでいけ!」と明確に、それこそ積極的に指示を出すことが必要だろう。それで失敗すれば仕方がないのだ。結果はともかく最後までそういう姿勢を見たいと感じる。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)