ドラフト1位ルーキー森下翔太の珍走塁あり、佐藤輝明の悪送球あり、とバタバタ感が目立った試合ではあった。その中で少し「おっ」と思わせたのは途中出場、熊谷敬宥の守備だ。

5回、左前打の渡辺諒の代走から出場した熊谷。6回表からそのままセカンドに。その最初の守備機会となった6回だ。1死一塁でオリックスの9番・太田椋の当たりは二塁へのハーフライナー。熊谷はこの打球をひきつけて処理。二塁へ送った。

打球を見ていた一塁走者・紅林弘太郎は一塁ベースよりで止まり気味。そのため4-6-3の併殺が楽々と完成した。なんと言うことのないプレーではあるけれどしっかりした状況判断だった。

一塁走者がスタートを切っていれば二塁ではなく一塁に投げて封殺での併殺を狙うはず。そうでなければ今回、熊谷がやったように動く。打球を追って、走者の動きも確認しながらプレーしなければならない。

「それだけでなく、打者走者の体勢も見ておかないとダメですね。今回ならイージーで行けるなと思って、二塁へ投げました」

試合後、話を聞きにいくと「ボクに聞くことはないでしょ?」と笑っていた熊谷だったが、すぐにこちらの意図を理解。プレーの流れを説明してくれた。しっかり考えて野球している様子が伝わってくる。指揮官・岡田彰布にもあの動きをどう見たか聞いてみた。

「おう。賢いわな。仙台育英か…。立教やもんな…。おーん」。よく分からない言い回しだったが評価していることだけは伝わってきたのである。

唯一の打席だった7回には速球派・近藤大亮を相手にフルカウントから四球を選んだ。それでなくとも少ないチャンス。打ちにいきたいところだろうが自身の立場を考えればこんな姿勢は重要だ。熊谷も「我慢、我慢です」と話した。

その足とマルチに守れる守備力を買って、公式戦でも試合途中から使うと指揮官が明言している熊谷。すでに開幕1軍ベンチは決まっているようだが遊撃を守れるのは強みだ。

ショートは木浪聖也、小幡竜平の争いが続く状況だが、このタイプでは少ない右打ち打者なのも悪くない。シーズンの展開次第で遊撃での出番もあったりして。若いながらいぶし銀の雰囲気も持つ選手。注目すべきはイケメンだけではないということだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対オリックス オリックスに敗れ引き揚げる阪神岡田監督(撮影・前岡正明)
阪神対オリックス オリックスに敗れ引き揚げる阪神岡田監督(撮影・前岡正明)
熊谷敬宥(2023年2月21日撮影)
熊谷敬宥(2023年2月21日撮影)