最近の芸能人はトンと分からないこちらでも知っている。中条あやみ。大阪出身なのも有名だ。試合前、球場内通路ですれ違うとき会釈したらぺこりと頭を下げてきた。なんと感じのいい。普段より通路に人が多いのは関係者も、ひと目、見たかったのだろう。

大入り満員の甲子園を試合前から沸かせたのも中条だ。始球式。右投げなのに右足を上げる。3度やってうまくいかない。首をかしげ、やり直す。ようやく投げると観衆も大笑いから拍手だ。「パニックになった」。始球式は初めてではないが、そこはマンモスの異様なムードなのである。

そんな中条の“幻惑投球”にやられたのか。阪神西勇輝、広島大瀬良大地の両先発の前に両軍、安打は出るものの得点につながらない。ジリジリ合戦にケリをつけたのは京都出身、カープの3年目、20歳の田村俊介だ。ゲラから9回、決勝適時打を決めた。

だがこの試合、特に光ったのは広島の守備だろう。7回、衝撃のプレーを見せた大阪出身の2年目・久保修だ。佐藤輝明の飛球を追って走る。最後はフェンスに激突しながら捕球した。カープ伝統の「捨て身プレー」を思い出した。

「フレッシュでしたね。フレッシュなプレーです。あれはすごい。ホメるしかないでしょ、あれは」。そう言ったのは阪神の外野守備走塁コーチの筒井壮である。いわゆる「敵ながらあっぱれ」というヤツだ。

久保だけではない。1回2死二塁の阪神先制機。ここで大山悠輔の当たりをベテラン秋山翔吾がジャンピングキャッチ。さらには9回、中野拓夢のライナーを途中出場の上本崇司が懐かしい表現だが“回転レシーブ”のように前方に跳んでキャッチするなど広島の好守が目立った。

「球際に強いですよね。今日はカープにそういうプレーが多かった」。筒井も首を振りながら、そう振り返ったのである。勝負事すべてに通じることだと思うが、野球も同じ。あれが安打になっていれば、アウトになっていればの「紙一重」が明暗を分ける。そういう意味でこの日は広島に分があったかもしれない。

ガンガン打っているときなら別かもしれないが打線は低調。不安は否定できない。「借金2」で12日からは首位・中日と敵地で3連戦。ここでムードを変えられるか。昨季の日本一チーム。ここはパニックにならず、踏ん張ってほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対広島 9回表広島2死二塁、田村の打球にグラブをのばすも届かず、適時三塁打とされる中堅手近本(撮影・前田充)
阪神対広島 9回表広島2死二塁、田村の打球にグラブをのばすも届かず、適時三塁打とされる中堅手近本(撮影・前田充)