一般に引き分けが有利に働くのは上位チームだ。ゲーム差が縮まらないからで、終盤、僅差で順位を争っているときなどドローは上位にとって勝利同様の価値になる。「引き分けは上におる方にとってエエんや」。指揮官・岡田彰布も昨年、ドローに終わった後、そんな話をした。

その意味では中日にとって今季2度目、阪神は今季初めての引き分けは中日に有利だったということだ。それは分かる。間違いない。それでもこの試合に限っては阪神に意味があったのではないか。

先発・青柳晃洋が好投したが7回までに2失点。対して中日の柳裕也からは7回をわずか2安打、無失点に抑えられていた。これは2試合続けてのゼロ封負けかも-。そんなムードが漂っていた8回だ。

中日の投手交代が流れを変える。2番手・勝野昌慶に1死を取られた後だ。代打に立った糸原健斗がシブい働きを見せた。12球を粘り、四球を選ぶ。そして木浪聖也が左前打で続き、1死一、二塁に。

ここで代打ノイジーは左中間への深いフライを放った。これで二走・糸原の三進は当然、一走・木浪まで二塁へ進むのだ。2死二、三塁。一打同点のチャンスをつくり、近本光司の同点内野安打につながった。

「筒井(壮)コーチの行け! という声が聞こえたし、自分も行こうと思って。とっさの判断です」。木浪はそう振り返った。四球から好機を広げ、頼れる1番打者にまわすという、昨季、強かったときの形ができたのである。

結局、両軍13投手が投げ、失点したのは青柳、勝野の2人だけ。昨年、日本一の阪神とそこから29ゲーム差離れた最下位に沈んだ中日。対照的な両軍だが、143試合を戦って引き分けはともに「5」。これは12球団最多タイだ。ブルペンを含む投手陣がいいという共通項があるからで、それが発揮された。

なにしろ阪神にとっては鬼門の球場ではある。虎党なら知るところだが、ここではなかなか得点できない。そもそも苦手だ。これで117勝199敗9分け。200敗にリーチがかかっているのはともかく、勝率3割7分は厳しい。ひとつの遠征で1勝できれば御の字という計算なのだから。

投手力、シブい攻撃を見せて打撃不振の中、なんとか引き分けで終えた。これを次戦に生かせれば「意味ある試合」になるはずだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

中日対阪神 試合終了、足早にベンチを後にする岡田監督(手前)(撮影・森本幸一)
中日対阪神 試合終了、足早にベンチを後にする岡田監督(手前)(撮影・森本幸一)