不思議な光景を見た気がする。

0-2の9回、なおも中日打線に3点を追加されて、敗色がいよいよ濃厚になっていた阪神。その2死一、三塁だ。ここで阪神ベンチは8回から登板していた3番手・木下里都に代わり、先日、支配下登録されたばかりの早川太貴をマウンドに送る。

それはいいのだが迎える打者は完投を目指す高橋宏斗だ。点差を考えれば、ここは、いわゆる「立っているだけ」の状況だろう。そこでのプロ初登板。おまけに緊張からかボークも記録し、三走を生還させてしまう。将来、振り返って記憶に残る場面かもしれない。

木下の球数が30球を超え、負担の軽い場面での登板を練っていた指揮官・藤川球児の考えがあって、こういうデビューになったよう。それは仕方ないのだけれど、不思議に感じるようなシーンが最後に展開されてしまうほど“流れ”が阪神になかったということだ。

勝ち星は増えていたが球数が増えるなど、いまひとつスッキリしない感じの才木浩人をずらし、水曜のこの日に先発させた。それを受けて序盤は好投する。だが試合の流れを変える場面は3回裏にやってきた。

この回先頭の8番・梅野隆太郎が粘った末に右前打。9番打者・才木の仕事は犠打だ。だが、できない。ファウルを繰り返し、結局、失敗して三振してしまう。1死一塁となって1番・近本光司は二直。これで一走・梅野が戻れず、最悪の形で併殺となった。

「当たり前のことをしないと相手に流れが行ってしまいますよね。確かに球の強い投手だけど、できないことはないですからね」。総合コーチ・藤本敦士はそう振り返った。

反対に高橋宏は6回の無死一塁で投手前にきっちり犠打を転がす。中日の先制2得点はここから入ったものだ。ともに立ち上がりのよかった先発投手にとって、バントの結果が好対照で試合が動いたのである。

「才木はバントがうまくできず、高橋投手はバントを決める。セ・リーグでは投げること以外にやらないといけないことがあるので」。選手を責めない球児も、やんわりとした表現ながら、そこを指摘した。

これで中日戦は5勝7敗。圧倒的なシーズンを送っている中で厄介な相手になりつつあるかもしれない。それでも相性どうこうより、こんな細かい点から試合は動く…ということを徹底する機会だろう。(敬称略)

【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対中日 中日に連敗しファンにあいさつする藤川監督(撮影・加藤哉)
阪神対中日 中日に連敗しファンにあいさつする藤川監督(撮影・加藤哉)