ドラフトの光と影――
今年のドラフトほど、それを実感した日はありませんでした。
10月22日、ドラフト会議のテレビ中継から、「選択終了」の声が聞こえると、東都大学野球リーグで史上23人目の100安打を達成し上位指名と有望視されていた亜細亜大の藤岡裕大選手(三塁・4年)はガックリと肩を落とし涙をこぼしました。隣には、ドラフト6位で阪神に指名された板山祐太郎選手(外野・4年)と、同じく指名がなかった北村祥治選手(遊撃・4年)が。まさかの指名漏れに、後ろにいたチームメートからの喜びの声もなく、会見場は静まり返りました。
23日、そんな涙の藤岡選手のことが気になって、亜細亜大のグラウンドに行ってきました。
午前練習が終わると、選手たちは一塁側に整列。全員で声を合わせ行進に続き集団走。部員106名、息の合ったランニングが終わると、外野に集合して、いつものあいさつ練習が始まりました。月曜日、OBの木佐貫洋さんへ贈ったそれ(前回、コラム参照)と同じシーン。しかし、最後のエール「フレー、フレー亜細亜」が終わると、学生コーチの伊達星吾君の声に続き、「フレー、フレー藤岡」、そして「フレー、フレー北村」。チームメート全員のエールがグラウンドに響き渡り、2人はグッと唇をかみしめました。
それはドラフトの指名がなかった2人へ、チームメートからのサプライズのエール。藤岡選手、北村選手はもちろん、ほとんどの4年生が涙を流していました。
「突然、エールが始まって、えっ? って思いました。あぁ、僕は1人じゃないんだなぁって。こうやって仲間がいてくれる。みんながいるからこそ、自分がこうしてここにいられるんだと感じました」と北村選手が話してくれました。
「練習後の集合で、監督がこんな話をしてくれました。鉄1キロと綿1キロ。どちらが重いのか? どちらも同じだ。僕らはたまたま野球をやっているからそれを主にして考えるけど、監督にとって藤岡と自分と、一般就職をする選手の人生は何も変わらない。子供の価値は1人1人変わらない。大学4年間は、皆、監督の子供。重いも軽いもない。ドラフトで指名されなかったからと言って下を向くな。今のみんなの目標は最終戦で勝つことだろう、と」(北村選手)
実はこの日の朝、毎朝全員が提出している野球ノートを、藤岡選手だけが提出していませんでした。未提出を問いただす監督に、「…何を書いていいのかわかりません…」と、泣きながら答えたと言います。
この4年間、1日も欠かさずに書いてきた野球ノート。10月22日、ドラフトの日――。この日だけ、藤岡選手のノートは真っ白。今までの努力は何だったのか。これまで積み上げてきた成績が崩れていく。悔しさ、悲しさ。気持ちの整理がつかぬまま、ペンは止まったままでした。
「監督に怒鳴られました。甘ったれるんじゃない、と。他の選手たちは、就職活動をして、落ちたらまた別の会社を受けに行く。お前はなんだ、ドラフトで指名されなかったからといって野球をやめるのか? あきらめるのか? お前の顔は負け犬だ。メソメソするな。練習なんか出てこなくてもいいから布団をかぶって寝てろ!って……」(藤岡選手)
気持ちが晴れぬまま午前練習を終えると、チームメートのエールが待っていました。
チームメート105人の大応援団。ドラフトで指名されず、無力だと思っていた自分。でも、振り返ると、一緒に涙を流してくれる仲間がいる。力をくれる仲間がいる。
「みんなが支えてくれたからここまで来られた。みんなに感謝したいです…。やっぱり自分から野球をとったら何も残らない…社会人野球にいって…2年後、見返してやろう…と…思います」涙ながらに話してくれました。
一夜明けてもなお、涙が止まらない藤岡選手を見ながら、北村選手が言いました。
「最高の仲間と、優勝をして最後は一緒に笑いたい。これ以上のことはないですね」
気持ちを1つにして向かう。亜細亜大学は、10月27日、国学院大学と優勝をかけて今シーズン最後の試合に臨みます(神宮球場、10時試合開始)。
「最後はチームのために、しっかり頑張ります!」(藤岡君)
2年後のドラフトへ――。藤岡君の新たな戦いが始まりました。
- チーム全員から突然のエールに、唇をかみしめる藤岡君(写真中央)。左は阪神に指名された板山選手、そして、キャプテンの北村君(右から3番目)