今季限りで退任予定の監督を、胴上げするまで負けられない。投手戦を制した函館工が、07年以来、8年ぶりの初戦突破で8強入りを決めた。下手投げのエース本庄拳也(2年)が、自身初の9回シャットアウト。OBで07年春に全道準優勝した時のエースを兄に持つ右腕が、1回に無安打でもぎ取った虎の子の1点を守り、兄が果たせなかった全道Vへ1歩、前進した。

 イニングを重ねるたびに、手本としてきた兄の姿が、函館工の絶対エース本庄の脳裏にちらついた。1回、味方が無安打で1点をもぎ取って以降、手詰まり状態。北見工の右腕を攻めあぐね、投手戦が続いていた。「昔、スタンドから見ていた兄の姿を、思い出した」。07年春の全道大会。OBで、2戦連続1失点完投し準優勝に貢献した兄惇也さん(26)に、マウンドの自分を重ね合わせた。

 兄と同じサブマリン。函館地区予選では絶不調だったが、大会直前の3日に投球フォームを見直して本番にあわせてきた。この日のために、小早川賢輔監督(58)の勧めで新球のシンカーを習得。「シンカーをエサとして使う。兄も全道大会前に覚えて、準々決勝以降、面白いように落ちるようになった」(小早川監督)。全道大会で勝ち抜くための新たな武器を、効果的に使った。

 今秋限りでの退任を決めた小早川監督と「出来るだけ長く一緒に野球がしたい」と本庄。「砂浜を走ってみろ」と言われれば、学校近くの大森浜を何度もダッシュし、「四股踏みをやってみろ」と助言を受けて日課に。下手投げの生命線である下半身が鍛えられ、左足の着地が安定した。函館地区予選1回戦から5戦連続で完投勝ち。兄同様、二人三脚の指導でエースに育ててもらった恩がある。

 夏休み中に3泊4日の秋田遠征で対戦したチームすべてが今秋、東北大会進出を決めた。先には負けられない。「失敗しても仕掛けられる野球をしよう」。弱いと言われてきたチームが、変わるきっかけをつかんだ遠征で、この日、四球を足がかりに強攻策で奪った1回の1点に、それが凝縮されていた。

 秋は8年ぶりの初戦突破で8強入り。総監督時代も含め函館工を率いて20年目の指揮官は、3季通じて過去3度、決勝の壁にはね返されている。ラストシーズンに、恩返しの優勝をプレゼントするつもりだ。【中島宙恵】