春夏1度ずつの甲子園出場を誇る羽黒(山形)の小泉泰典監督(31)は12年8月の監督就任以来、プロゴルフにも活用されている4スタンス理論を野球の技術指導に役立てている。重心の位置がつま先か、かかとか、内側か外側かの計4パターンに分類する身体論で、重心のある位置によって人間の動きの性質が分かるといわれている。羽黒では入学した新入生に対して、屈伸など10種類以上のテストで振り分け、4タイプ別に適した指導法で選手の潜在能力を引き出している。

 慶大で投手だった小泉監督は同大大学院で投球メカニズムの研究を続け、院1年時に4スタンス理論と出会った。

 ◆4スタンス理論 人間の動きの特性は先天的に4つのタイプ(A1、A2、B1、B2)に分類され、その特性は重心の位置によって定まるという理論。それぞれの動きの特性に合った指導をすることで故障を防止し、パフォーマンスの向上を図ることが出来る。

 「うまくいく、うまくいかない選手を分類ができるようになったし、自分が投手としてうまくいかなかった理由が分かった」。慶大投手コーチとして指導する中で芽生えた疑問が氷解した瞬間だった。

 研究を進めていくうちに「重心の位置で右半身か左半身のどっちを意識すべきかの判断材料になる」ことが分かった。「投げれば投げるほど悪くなる」状態だった自身の大学時代の苦しい経験にも説明がついた。「自分の重心はつま先外側(A2)でした。この理論では右投げだとグラブがある左半身に軸を作るのが理想なんですが、軸足の右股関節ばかりを意識していたのでうまくいかなかった」と振り返る。理論に適した投げ方の正反対のことをやっていた。

 小泉監督が同理論に傾倒した理由に自身の苦い経験があった。慶大投手コーチ時代に「自分が間違った指導をしてしまい、悪い方向に導いて迷惑をかけてしまったこともあった」。同じ過ちを繰り返すまい。そんな強い意志で粘り強く指導を続けてきた。エース右腕の矢作壮生投手(2年)も同理論に従った指導によって、急成長を引き出した。

 矢作の重心は「かかと外側(B2)」。冬場は右足に体重を残すフォームに矯正し、127キロから最速137キロまで上昇した。矢作は「今までは前に開いて投げていたけど、今のフォームはしっくりきます」と手応えをつかみ、小泉監督も「軸となる右足を使えるようになって制球が安定した」と絶賛する。

 昨夏の山形大会は準優勝。昨秋、今春とともに県大会初戦敗退が続くが、矢作の急成長もあり、03年以来遠ざかる夏の甲子園も視野に入ってくる。「自分の体に合ったことを教えることで、今までできなかったことができたりします。甲子園に連れていって、少しでも良い思いをさせてあげたい」。挫折から出会った指導方法で、自身にとっても初の甲子園を狙う。【高橋洋平】

 ◆小泉泰典(こいずみ・やすのり)1984年(昭59)10月3日、川崎市生まれ。慶応高から慶大に進学し、4年時には学生コーチ、慶大院では投手コーチを務めた。10年4月に羽黒に着任し、12年8月から監督就任。右投げ右打ち。同校社会科教諭。180センチ、83キロ。