創立128年目を迎える山形・庄内地区の進学校、鶴岡南のエース左腕・冨樫武仁投手(3年)には、女子部員の妹美央内野手(1年)がいる。男子部員と同じ練習メニューに必死に取り組む姿はチームに勇気を与え、既に欠かせない存在となっている。9日の初戦は東桜学館と対戦する。エースとして、兄として、左腕を目いっぱいに振って兄妹愛で初の甲子園に導く。今日7日、東北地区の先陣を切って、青森大会が開幕する。

 練習風景を見ていても、女子部員がいるなんて分からないぐらいに溶け込んでいた。「お兄ちゃんに相談したら、ついていけるんじゃないのって言われたので」。兄の背中を追って小3から野球を始めた美央にとって当然の決断だった。

 入部当初は先輩から「武仁の妹」と呼ばれていたが「今は美央って呼び捨てされてうれしい」と笑顔を見せる。男子部員と同じ練習メニューをこなしているうちに自然となじんでいった。足がつりながらも必死にポール間走に取り組む姿を見て、兄武仁は「妹としては見ていない」。若木大和主将(3年)も「誰も女の子と思ってない。あれだけ頑張っていて、自分たちがくたばってられるかよって逆に勇気をもらいます」と“美央効果”を強調する。

 妹じゃなきゃ分からない変化に気付いた。春県大会での武仁の投球VTRを見た美央が「歩幅がいつもより広くない? 体重が前にしっかり乗ってないよ」と指摘。普段は6歩だが、実際に測ってみると6歩半あった。武仁は「球の伸びが良くなった」と妹に感謝した。

 女子部員は現制度では練習試合に出場できるものの、公式戦には出られない。そんな中でも美央が真剣に練習に取り組むのは「純粋に野球が楽しいし、兄が一生懸命で手を抜かない人だから」。兄妹で一緒に野球をできるのはあとわずか。雄弁でしっかり者の妹に対して、寡黙で真面目な兄が、最後となる夏への決意を宣言した。「妹を甲子園につれていきます」。短い言葉の中に、兄の威厳が凝縮されていた。【高橋洋平】

 ◆冨樫武仁(とがし・たけひと)1998年(平10)10月26日、鶴岡市生まれ。朝暘第四小3年で野球を始め、鶴岡第四中を経て鶴岡南に入学。2年秋から背番号1を任され、昨秋の1回戦では山形商相手に公式戦初完封。176センチ、77キロ。左投げ左打ち。家族は両親と妹。

 ◆冨樫美央(とがし・みお)2001年(平13)3月11日、鶴岡市生まれ。朝暘第四小3年で兄武仁を追って野球を始めた。鶴岡第四中ではソフトボール部に所属しながら、クラブチーム「山形セレクション」で野球を続けた。部内では兄を「武仁さん」と呼ぶ。163センチ。右投げ左打ち。

 ◆県立鶴岡南高等学校 1888年(明21)に創立され、野球部は1900年に創部。甲子園の出場はなく、直近10年の夏の最高成績は06年と14年の準々決勝進出。生徒数は599人(女子313人)。主なOBは作家丸谷才一、電撃ネットワーク南部虎弾。所在地は鶴岡市若葉町26の31。京谷伸一校長。