兵庫大会は神戸国際大付の「あばれる君」が攻守に活躍し、春夏連続の甲子園を導いた。4番猪田和希捕手(3年)が先制決勝の2ランを放つなど2安打3打点。守っても二盗阻止など強肩を披露して、完封快勝を演出した。

 飛んだ。飛んだ。初回2死一塁。猪田が振り抜いた打球は右中間にグングン伸びた。右打者が右方向へ、しかも推定130メートルの超特大、先制2ランだ。今夏4本目のアーチでホームを踏むと、「よっしゃー!」と雄たけびを上げた。

 だがベンチに帰ると、青木尚龍(よしろう)監督(52)に笑顔はなかった。「長いこと監督をやっていて、右バッターで右中間にホームランを打つのを初めてみました。一生心に残るホームランです」。なんと、監督自身が仰天していた。

 両翼100メートル、中堅122メートル。独特の浜風もあり、右方向へ本塁打を打つのが難しいとされる明石トーカロ。青木監督は「(教え子で左打者の)坂口(ヤクルト)とか栗山(西武)くらいしか見たことがない」と言った。それを右打者がやってのけた。しかも2戦連続の決勝弾。それでも当の猪田は「日頃から逆方向に意識して打っている」と控えめ。だが、その風貌から「あばれる君」似の主砲として注目されたのも、昨秋近畿大会で紀三井寺球場の右翼に1発放ってからだ。

 7月上旬の練習試合後、円陣で青木監督から指摘された。「人としてはええやつや。でも気が弱いところがずっとある。しっかり自分を持て!」。今春のセンバツでは浮足立ち、どこかオドオドしている自分がいた。結果、初戦の東海大福岡戦は無安打と力を出し切れずに敗退した。教訓を胸に、意識するのは「目力」だ。「にらみつけるわけじゃないけど、どこに投げても打たれそうな感じに」。この日は本塁打後に敬遠されるなど、2打数2安打3打点2四球のフル出塁。迫力でも相手を圧倒した。

 守備でも魅せた。4回は一塁走者をけん制で刺し、5回は二盗を阻止。強肩発動で完封をアシストした。「最後の夏で腹がすわった」ともう気弱な姿はない。「4番として打点を稼ぐことが全て」。春のリベンジを期し、あばれる君が甲子園に乗り込む。【磯綾乃】

 ◆猪田和希(いのだ・かずき)1999年(平11)8月20日、兵庫県西宮市生まれ。高木小1年から「高木野球団」で野球を始め、瓦木中では「兵庫伊丹ヤング」に所属。神戸国際大付では1年秋から左翼手としてベンチ入り。3年秋から捕手を務める。50メートル6秒7。通算28本塁打。183センチ、80キロ。右投げ右打ち。