海上をまっすぐに伸びる古宇利大橋が話題の沖縄本島北部・今帰仁(なきじん)村に、全国では無名の逸材が潜んでいた。「自分はまだまだです。沖縄全体で10番以内に入っていればいいな、くらい」と恐縮の表情で笑うのは、北山(ほくざん)の右腕・金城洸汰投手(3年)だ。

周りの評価は、ちょっと違うようだ。3月4日時点でNPB4球団が視察。津山嘉都真監督(39)は「実は明日、また1球団、お越しになるんです」と教えてくれた。その後17日時点で「視察済み」は7球団にまで増えたという。187センチ、76キロの細身から、最速138キロ。県内でもまだ、昨夏甲子園で活躍した興南・宮城大弥投手(3年)ほどの知名度はないが「北山の金城」のうわさは、じわじわと広まりつつある。

金城は昨夏も背番号1をつけ、県大会4強。しかし初戦で死球を受け、ほとんど練習できずに準決勝で打たれた。昨秋はシンガポール代表との交流戦に先発するも、初回の初球にライナーをひざに受け、降板。「1年生の時は成長痛であまり投げられなかったんです」と津山監督。今月10日は龍谷大平安(京都)の練習試合も予定されていたが、それも雨天中止。素材は良くても無名なのには、こんな訳があった。

ブルペンで投げ始めた。上体をのけぞるようにして真上から投げ下ろし、最後はコンパクトに体を縮める。個性的なフォームが印象的だ。「ひじや肩に負担がかからないように、フォームをいろいろ改善してきて、今のに定着しました」と金城。沖縄といえどもまだ冷え込む時期。直球は130キロ前後にとどまる。

変化球が面白い。打者が思わずビクッと反応してしまうようなスローカーブにチェンジアップ。スライダーも大きく曲がる。北山投手陣は総じて、変化球の曲がりが大きい。「沖縄の子は器用です。県外で練習試合をすると、変化球の投げ方を聞かれることが多いです」と津山監督も手ごたえを感じるほどの精度だ。

沖縄美ら海水族館にほど近い本部町の自宅から、自転車で通う。やんばる(=山原)と呼ばれる本島北部の自然を存分に味わう毎日だ。「海もあるし、山もある。いなかですけど、落ち着いている場所。住み慣れました」。しかし個性豊かな変化球をベースに、本人が言う「145キロまでは伸ばしたい」が実現すれば、世界はいよいよ広がる。

「小さい頃から甲子園ってあまり興味がなかった。行くのが難しい場所ではあると思います。でも今は、プロに行くために立たないといけない場所だと思っています」。最後の夏まで、どれだけ伸びるか。3月8日掲載の本紙ドラフト候補リストからは漏れた“やんばるエース”の大化けが楽しみだ。【金子真仁】