明石商(兵庫)が夏の甲子園初白星を挙げた。大会最高打率の花咲徳栄(埼玉)打線をエース中森俊介(2年)が3失点に封じ、同点の7回に重宮涼主将(3年)が決勝打。白熱のV候補対決を制し、目標の全国制覇へ会心のスタートを切った。

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重宮はしびれる場面で笑っていた。3-3。7回無死一、三塁の絶好機。だがスクイズのサインに主将はファウル。「外角に張っていたら中に来て、ミスって笑ってしまいました」。狭間善徳監督(55)は苦笑いで、もう1度スクイズのサイン。だが、出している途中で取り消した。新たなサインは「打て」だ。

確率論を突き詰める狭間監督が主将のバットに託した。重宮は2ストライク後、バットを短く持ち替え、極端に小さく構えるノーステップ打法に変更。変化球に食らいつき、右前に落とした。「打てのサインが出たので、決めてやろうと思った」。気迫満点の決勝打に笑みがはじけた。

昨冬、今年6月と2度も主将を降りようと決意した。6月は実際に申し入れた。誰にでも怒れるガッツマンだが、自らのリーダーシップのなさを嘆いた。2度とも仲間からの後押しで翻意。今では狭間監督が「あいつは勝負強い。あんな主将はいない」と言うタフな精神を身につけた。兵庫大会決勝9回の決勝スクイズに続いて勝負を決めた。

明石商得意の接戦を演出したのはエース中森だ。初回に自己最速まで2キロに迫る147キロを出したが「調子は6割ほど」と速球が走らず、チェンジアップを軸にした。今大会出場校のうち最高のチーム打率4割3分2厘を誇った強力打線を相手に丁寧に制球して9回3失点完投。ビッグイニングは作らせなかった。

「点を取ってくれていたので申し訳ない。調子が悪い中で試合が作れたのはよかった。昨年は自分が打たれた。夏1勝で借りは返せたかな」と中森。ほとんど寝ずに相手の研究を続けてきた狭間監督は「今までやってきたことが全て出た。このチームは切り替え、辛抱強さがあり、最後まであきらめない。明石商らしい野球だった」と誇らしげ。緻密な計算と、作戦を遂行する強靱(きょうじん)なメンタル。接戦の中でこそ光る、明石商の強さだった。【柏原誠】