14年前の夏、マー君に心理戦を仕掛けた球児がいた。東洋大姫路(兵庫)の主砲、林崎遼さん(31)は06年夏の準々決勝・駒大苫小牧(南北海道)戦を前に、世代最強投手の現ヤンキース田中将大投手(31)に宣戦布告。実際、初回にいきなり2ランを放ち、当時夏甲子園3連覇を目指して公式戦46連勝中だった絶対的王者を追い詰めた。その裏側に隠されていた捨て身の作戦とは…。

   ◇   ◇   ◇

当時から田中のスライダーはすさまじかったと、林崎さんは熱弁してくれた。駒大苫小牧との準々決勝では田中から先制2ランを含む3安打2打点。数字だけを見れば互角以上に戦ったようにも思えるが、本人は否定する。1点を追う9回表1死では高めのボール球を強引にたたいて右越え二塁打。これも諦めの境地に達した結果だったという。

「変化球は絶対に打てないと割り切っていたら、捕手が中腰になる気配がして。打つなら高めに外す直球しかないと思って無理やり打ちにいったんです」と照れ笑い。虚勢を張らず素直に相手をたたえ続ける言葉を聞きながら、会社員となって5年目を迎える31歳の器の大きさを感じた。