<高校野球長野大会:上田染谷丘2-1上田>◇7日◇2回戦◇県営上田野球場

上田の奥村太一投手(3年)のラストピッチは格別の味がした。奥村は敗戦が決まると、涙を流すチームメートをなぐさめながら荷物をまとめた。涙はない。

「自己中心的な言葉になりますが、集大成のピッチングとして満足しました。満足したというか、悔いを少なくするピッチングができました。負けたんですが、まだ実感がわかないです」

9回は犠打で一塁に猛然とヘッドスライディング。取材を受けながら、体が動くたびにベルト付近にこびりついた土がポロポロとこぼれる。真夏の日差しが戻った県営上田野球場は蒸し暑い。試合後の奥村も何度もユニホームの肩口で汗を拭った。

初回、先頭の小林に中越えの二塁打を打たれ、2死から鳴沢に先制打を許した。奥村は試合に入りきれなかった。「立ち上がりに甘さが出ました」。具体的な部分を聞かれると「小林君はいいバッターと聞いていました。初球が大事になる。外角低めを狙いましたが、そこに投げきれなかった。それでカウントを2-0と悪くして、二塁打につながったと思います。あそこがとっても大事な場面でした」。初回は打者5人に対し2-0とボール先行が3度。しかし、投げていくうちに奥村は試合にのめり込んでいく。

「楽しかったです」

初戦の更級農戦ではサードに打たせる頭脳的なピッチングを見せた。奥村はそれを「逆説的ピッチング」と表現した。三塁手に打たせると公言することで、自分を追い込み、それが自分のボールに自信をつける効果がある、そういう仕組みでの「逆説的」ピッチングだった。この日も同じ流れかと思ったが違った。奥村は「打者との勝負がおもしろくて。守備のみんなとの連係が楽しい時もありますが、今日は違いました。打者との勝負を楽しみました」。

印象的な対戦は打たれた場面だと言う。5回2死走者なしで迎えた滝沢だった。

「同じ中学で4番でした。中のボールを使ったり、変化球で狙いを外したり。フルカウントまで行きました。打たれましたけど、投げていて楽しかったです」

6回を投げ8安打2失点。集大成のピッチングを自己分析してもらうと「ストライク率が良かったと思います。数字は出ていませんが、感覚的には75%くらいかなと思います」。これまでのアベレージ60~65%から大幅アップの実感があった。

上田染谷丘には顔見知りがたくさんいた。「小学校から野球をはじめて、一番楽しかったピッチングでした。染谷丘には元チームメートもいっぱいいました」。中学時代までの仲間と、夏の大会で決着をつけられる。成長した相手と、工夫を重ねてエースになった立場で勝負に没頭した。

さあ、これからは受験に向けた日々。

「今日勝てば週末の模試に行かなくて良かったんですけど…。やっぱり勉強しないとダメですね」

「逆説的」ピッチングで自分を奮い立たせた奥村は、最後は打者との対戦に夢中になり、逃げずに勝負した101球。

「エース番号をもらって一番小さい数字に、一番期待がこもってる。その期待がピッチングのパワー、エネルギーにつながりました。楽しかったです」

こんな高校野球の終わり方もすばらしい。【井上真】