<高校野球徳島大会:池田高辻4-2つるぎ>◇1回戦◇10日◇オロナミンC球場

つるぎのエース左腕、尾崎一真投手(3年)が超遅球を駆使して奮闘した。6回まで無失点に抑えて2点リードを保ったが、7回につかまった。100キロを切るカーブも駆使したが、4安打を浴びて3点を失い、逆転された。9回完投で惜敗したが吹っ切れた表情で言う。

「人生で一番、よかったんです」

緩急の妙が光った。チェンジアップなども織り交ぜて、相手の間合いを外す。6回までは散発の3安打で「0」を並べた。「秋は球種が少なかった。チェンジアップや縦のスライダーも増えて投球の幅が広がりました。三振を狙ったり、真っすぐの伸びも意識しました」。際立ったのは1点差をつけられた8回だった。2死満塁のピンチを招いたが、最後は速球系で二飛に詰まらせた。9回も1点を失ったが、直前のバント処理では好フィールディングで二塁封殺。最後まで球速「93」「92」「87」とスローカーブを繰り出し、持ち味を出した。最後まであきらめず堂々と踏ん張った。

カーブと生きてきた。入学直後に教わった球種だ。レッドソックス岡島秀樹、中日今中慎二、オリックス星野伸之…。カーブの使い手の動画を研究して、技量を磨いた。「(球速)80キロいくか、いかないかくらいを意識しています」。打者を手玉に取り、夏の初戦で成長した姿をみせた。

7回、逆転される3点目は三塁を守る山口和也内野手(2年)が捕り損ねた適時打だった。その直後、山口がマウンドに駆け寄る。「僕が呼んだんです。守備ミスするのは仕方がない。そこに打たせた自分が悪い。『もうちょっと足を動かせ。気にせず、頑張っていけ。スマイルで行け』と言ったんです」。こわばる山口の肩を抱きながら、気持ちをほぐした。強振されたゴロだった。もっと詰まらせていれば…。後輩に責任を負わせず、自らがその荷を背負った。

「楽しかったです」

眼鏡のサウスポーがベンチから引き揚げてきたとき、涙はなかった。今後は就職する予定だが野球はこれからも愛する。汗で光る髪、晴れ晴れとした笑顔。すべてを出し尽くした球児の姿があった。【酒井俊作】