<全国高校野球選手権:沖縄尚学8-0阿南光>◇16日◇1回戦

阿南光のブルペンに森山暁生(2年)以外の投手が立ったのは、背番号5の佐々木春虎が投球練習を行った8回の1度きりだった。それも、不測の事態に備えただけ。誰かにつなぐ考えは、中山寿人監督(59)になかった。「アクシデントがない限りは最後まで森山でいこうと。どういう展開になっても最後まで投げようと」。今夏全5試合を左腕に託した。

8回13安打8失点完投の2年生エースは179球を投げた。今年の甲子園に登場した投手では、選抜大会準々決勝の天理(奈良)・達孝太(3年)の164球を上回って1試合最多。「球数は多かったが、1球1球が向上するための大切な1球になりました」。監督が“最後のエース”に託した思いだった。

監督は今年度で定年退職を迎え、夏は最後。大阪桐蔭、市和歌山など好投手を擁する県外の強豪校と試合を組む強化策を立てていた。新型コロナウイルス感染拡大で中止と思い通りにいかなかったが、選手は徳島商など強敵に競り勝ち県制覇。甲子園で終われる夏になった。すべてが貴重な瞬間だった。

何点取られようと、森山は懸命に向かっていった。早くもプロから注目される2年生は、夏の全試合を任せてくれた監督に「一生かけても返しきれない恩があります」と感謝した。179球をかけて、得たものがあった。【堀まどか】