魂のサウンドに乗って、市船橋(千葉)が夏の甲子園で25年ぶりの勝利をつかんだ。序盤に0-5と大量リードを許したが、8回に追いつき、最後は9回1死満塁、代打黒川裕梧内野手(3年)の押し出し死球で劇的なサヨナラ勝ち。アルプスから流れる応援歌「市船soul」に導かれるかのように、大逆転で初戦を突破した。

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市船橋が劇的なサヨナラ勝ちを決めた。2時間21分の熱戦は同点の9回1死満塁、アルプスから流れる「市船soul」に後押しされるかのように、代打黒川の押し出し死球で決した。

序盤に大量5点を奪われる中、流れを引き戻したのは3回途中から登板したエース森本哲星。6回以降は3者凡退で、興南の勢いを止めた。力投に応えたのは4番。2点を追う8回1死、片野が初球142キロの直球をフルスイングした。「打った瞬間いったと思った」。打球は左翼スタンドへ。アルプスから「市船soul」が流れ始めると、今度は同点機がやってきた。2死から連打でチャンスを広げ、森本哲星が同点打。「打席に立つ前、『お前が決めてこい』と言われた。今日は、楽しんでプレーができた」と笑った。

千葉大会から、選手たちは不思議な力に引き寄せられてきた。吹奏楽部顧問の高橋健一教諭(61)は「まるであいつが全部、仕組んでいるかのよう」という。“あいつ”とは、吹奏楽部OBで17年にがんで急逝した浅野大義さん(享年20)だ。「市船soul」は浅野さんが在校中に作曲。以来、野球部に受け継がれる応援曲となり、実話をもとに今年5月、映画「20歳のソウル」が公開された。

「大義は、常に人のために生きる子。困ったヤツを見ると助けに行く」。だからこそ、チームのチャンスには大義さんの魂が音となって、選手たちの背を押す。千葉大会決勝では、母桂子さん(57)が大義さんの使ったトロンボーンを持参。吹奏楽部のスタッフが息を吹き込むと、勝ち越し打。甲子園初戦でも大逆転。片野は「魔法の曲。流れると自信を持ってバットを振れます」と言えば、森本哲星は「ハートを燃やしてくれる応援歌」と感謝した。

高橋教諭は「大義は20年しか生きられなかったけど、死んでもなお、影響を与え続けている。生ききったと思います。そんな大義があっぱれです」という。選手たちを甲子園に導き、熱いプレーを後押しした魂のサウンドが、勇気を与え続ける。【保坂淑子】

 

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