仙台育英(宮城)が、悲願の優勝旗「白河越え」に王手をかけた。

聖光学院(福島)との初の東北勢対決となった準決勝を18得点を奪って大勝。対策が見事にはまり、19安打のうち13本が単打の“コツコツ打線”が本領発揮した。持ち味の継投に加え、打線も活発化。聖光学院の思いも背負い、新しい歴史を刻む。22日の決勝では、初優勝をかけて下関国際(山口)と対戦する。

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まさかの大勝だった。投手をつないで勝ち上がってきた仙台育英が、打線もつながった。須江航監督(39)は「驚いています。こんな試合展開になるなんて1%も想定していなかった」と言った。

1点を追う2回、打者一巡の猛攻を仕掛けた。先頭が四球を選び、遠藤太胡(だいご)外野手(3年)の二塁打から4連打で一気に逆転。3安打5打点をマークした遠藤は「ゴロでつないでいくのが自分たちの野球。その点ではすごくよかった」とうなずいた。

打力がないと言われてきたチームが、準決勝の舞台で打ちまくった。この日の19安打のうち13本が単打。コツコツつないだ。県大会夏5連覇を狙った昨年は、4回戦で敗退。プレッシャーもあり、須江監督は「小さい打撃になってしまった」と振り返る。それ以来、狙うのは長打ではなく、あくまで単打。目指してきた“ゴロを打ってつなぐ”スタイルを、ここぞの一戦で発揮した。

徹底した対策が土台となった。準決勝前日、メンバー外の福田虎太郎投手(3年)らが聖光学院の「仮想佐山」となり、打撃練習で腕を振った。配球データの傾向から、140キロ超の直球とスライダーをミックスした。ベンチ外にも140キロ超え投手をそろえる層の厚さがあるからこそ出来たシミュレーション。遠藤は「対策が本当に生きたとチーム全体で感じた」と感謝。その福田は「メンバーが100%で試合に挑めるように、やれることを全うしてサポートする」と胸を張った。

隣県の聖光学院とは、車で1時間の距離。今年4月に練習試合を行うなど普段から交流もあり、お互いの手の内も知り合う。試合後には、相手主将の赤堀颯内野手(3年)から「絶対、優勝しろよ」とエールを送られた。「その思いを背負っていきたいなと思います」と遠藤。東北勢悲願の「白河越え」へ-。歴史をつくってみせる。【保坂恭子】

◆白河の関 勿来(なこそ)の関(福島県いわき市)、念珠(ねず)ケ関(現鼠ケ関、山形県鶴岡市)とならぶ奥羽三古関の1つ。栃木県との県境に近い福島県白河市に5世紀ごろ、蝦夷(えみし)の南下を防ぐとりでとして設置された。奈良時代から平安時代ごろには、人や物資の往来を取り締まる機能を果たした。白河関跡は国指定の史跡。関跡を境内とする白河神社には、源頼朝の挙兵を知った義経が鎌倉に向かう道中、勝利を祈願したと伝わる。西行、松尾芭蕉ら歌人、俳人も多く訪れ、名歌を残した。東北勢は甲子園で春夏通じて優勝がなく悲願のVは、この関所になぞらせ「白河越え」と言われてきた。

<準決最多4戦突破>

◆1試合18得点 夏の準決勝では21年和歌山中18-2豊国中、84年取手二18-6鎮西に並ぶ最多。

◆1イニング11得点 夏の準決勝では、70年PL学園が高松商戦の7回に12点を挙げたのに次いで2位。

◆個人1イニング最多二塁打2 遠藤が2回に記録。98年赤田将吾(日南学園)が愛工大名電戦、16年小西慶治(東邦)が北陸戦で記録したのに次ぎ3人目。

◆3時間ゲーム 試合時間は3時間6分。夏の9回終了試合で3時間以上は11年の帝京8-7花巻東(3時間6分)以来11年ぶり。

◆準決勝4戦全勝 仙台育英は春夏通算4度目の準決勝をすべて突破。準決勝無敗の学校では駒大苫小牧、習志野、静岡商、関西学院の各3度を抜く最多。