日米通算4367安打のイチロー氏(49=マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクター)が4日、富士高校(静岡)のグラウンドで、2日続けて同校の野球部員を指導した。

 

<イチロー氏の1日目(3日)指導ドキュメント>

 

富士高校のグラウンドからは富士山が見渡せる。1日目は山頂付近に雲がかかっていたが、イチロー氏が来たぐらいから雲も消え、山頂まではっきりと見えるようになった。

 

午後0時20分 生徒が一塁ベンチ前で円陣。監督が練習前のミーティングで生徒に言葉を掛けている時に、イチロー氏がバックネット側の通路から現れ、気づいた生徒は驚いて、笑顔。「え!」や「がち?」など。

円陣の中に。「ははっ」と笑って「想像、してなかったよね?」。生徒の1人が「ものまねの人ですか?」と冗談交じりに言うと「違うわ」と返す。

「みんなに(臨時指導を)リクエストされたわけでも、監督さんからリクエストされたわけでもない。地域の子どもたちに野球振興、普及活動を熱心に取り組んでいる。みんなは勉強もすごく頑張っている。すごく、期待されているんだってね。みんな、社会人のころリーダーとなって、どんな世界に進むか分からないけど、リーダーとなって地域に還元する目標があると聞いてきました。一緒に野球をやってみようかな、とそんな感じです。何ができるか分からないけど、一緒にやってみましょう。遠慮なく疑問があったら話を聞きに来て下さい。2日間、よろしくお願いします」

 

午後0時30分 アップ開始。イチロー氏は、カメラマンの要望に応じて富士山をバックに記念撮影し「これは気持ちいい」。塁間ダッシュをする生徒に近づき、生徒の横で一緒に、軽やかに走る。

 

午後0時35分 キャッチボール開始。イチロー氏も練習パートナーを相手にキャッチボール。途中から生徒は80メートルくらいの遠投を行い、その様子を横で観察。

 

午後0時45分 生徒はトスバッティング。

 

午後0時50分 生徒は3分1セットで計2セット。一塁側、三塁側と2グループに分かれ、走者はなしでの塁間の距離での挟殺プレー練習。ハイテンポで交互に投げ合う練習に「きついよね」と横で見ていたイチロー氏も生徒に声がけ。「ちょっと入るわ」と、2セット目の途中から加わりる。終わって「いい練習だね、これ」。

 

午後1時 生徒はボール回し。ベースを走り周りながら、ボール回し。これも3分1セットで、4セット。イチロー氏はベンチ横で部長から練習の意図や方法などを聞く。練習時間も限られているため数を多くこなすなど、他の部活動との共用のためコンパクトな練習方法を実践すると説明を受ける。

 

午後1時20分 内外野に分かれ、ノック。生徒と一緒に外野の一カ所ノックに入る。

最初は左右に振られる打球だったが、途中からゴロをさばいて、ホームに送球するチャージの練習に。捕球する時に減速してしまう生徒に「もったいないよね。せっかく後ろからいっているから、その力をなるべく生かしたい。止まってしまうとゼロに近くなる」。

「(捕球する時に)なるべくグラブは縦に」

「キャッチボールと一緒で慌てないで、形をつくって」

イチロー氏が一度、打球をそらした時には、ノックをした監督から「何か言え」と促され、生徒が「イチロー選手、しっかり」と恐縮しながら発言。イチロー氏は笑った後に「すみません。次、(もう1回)行かして下さい」と“おかわり”。

 

午後1時45分 ノックがなかなか終わらず「あと、どのくらいやるの?」と生徒に質問。生徒が「あと20分」と答えると、「あと20分? 無理でしょう」と言って、ノッカーの監督に「監督、あと1本ずつでお願いします。ラスト!」。ラスト1本で好返球する生徒に「いいね、最後の集中力。その感じ」と褒める。

 

午後2時 ケース打撃開始。一塁走者の後ろ(ライト側)で、リードの取り方などを実践。

生徒から「盗塁の時に何を意識していたか?」と聞かれ「リードを大きく取れるからと言って、大きく取らない。それがコツ。盗塁する時は、戻る(けん制されて帰塁する)気持ちはなくしておきたい。けん制されても戻れるという距離を測っていたら、100パーセントで走れる。(リードが)大きいからいいわけでない」。

足をクロスしながらリードを取る生徒に「この体勢(足をクロスしてリードを取る姿勢)、怖くない? その瞬間はない方がいい。僕はしないんだけど、絶対」。監督との会話の中でも「こうする(足をクロスする)必要は全くない。リスクしかないので。うまい投手はすぐに見抜きますからね。この(けん制死での)1アウトは絶対に取らしたくないですからね」。

 

午後3時5分 2カ所でのフリー打撃開始。三塁側のベンチから見ていたイチロー氏に生徒が近づき「チャンスで打てる秘訣は?」と質問。ケージ裏に移動して質問に答える。

「高校の時は結構うまくて、高校生レベルだとプレッシャーにならない、僕の場合は。練習で打っているようなものなので、当時は『また打点、稼げる』と思っていたけど、プロではそうはいかない。(指導に行った)高校、みんなに聞かれるけど、必ず答えるのは、魔法みたいなことはない。自分が結果を出して自信をつかむ。それしかないけど、打席に入るまでの自分の動き、自分のリズムをつくって、打席に入れるかが大事。自分の形、呼吸、間合いをつくることが大事。有効だと思う。打席に入る前から(同じ)リズムで入って、それが重要。それは必ず、みんなに伝えます」

 

午後3時50分 フリー打撃終了後にネットを片付け、ホーム付近でバックネットに向かって正面からのトス(3、4メートル離れた距離から)を打ち返す打撃練習を実演。トスを投げる人の前にはネットを設置。声を出しながら、全力で105スイングほど。「バットをどうやって使っているか、見ておいて」と言って開始。正面に設置してあるネットから逆方向への打球を続け、途中「引っ張っります」と言って、右方向に引っ張る打撃も。打撃実演をしながら、スイングをやめ、生徒の方を向いて助言。

「全部、下で伝えている。腕を回すとか体を回す意識は全くないと言っていい。全くない」

「股関節の動きが特徴的。股関節がピッチャーに入っていく動き。(打ちに行く時に)頭の位置、手の位置は全く動かないと思うけど」

「この間(正面のネットから左方向)をターゲットにしておいて。(試合前の)BPでは引っ張るんだけど、ゲームへ準備ができたという感触を得るための練習。(このトスでの打撃練習は)その一歩前の練習。しっかり形をつくるための練習。この形と同じ形で引っ張る。(上半身を)回しているように見える?この形をキープすれば、内の球もレフトへ(打てる)」

 

生徒からの質問。軸足がどっしりして方が飛距離が出る? イチロー氏は軸足が動いているが、といったような内容。

「動いてくるボールに対して(軸足を止めていたら)僕は力を発揮できない。動いてくるボールに対して、僕は動きたい。これ(下半身の動き)でパワーを伝えている。股関節と(軸足の)左足でパワーを伝えている。受けて飛ばす最高の打者がバリー・ボンズ。あの人は受ける。あの人は天才です。(軸足を動かす)この動きは難しいです。みんなに薦めるわけではない。この体でも飛んでいくのは、それでそうなるのは、みんなに考えて欲しい」

先ほど、打撃練習中に「内側の球を逆方向にうつためには」と質問に来た生徒に「ちょっと、やってみる?」と言ってこの打撃練習をやらせてみる。最初は逆方向への打撃を続けさせた上で、引っ張りの打撃もやらせる。

「詰まってもいいから、同じ形で引っ張る。楽しないように。手を距離を詰めるのではなく、下から」

 

午後4時15分 最後の練習でベースランニング。本数は主将とイチロー氏がじゃんけんをして、主将が勝てば5本、負ければ10本に。主将が勝って、喜ぶ生徒たちに「おめでとうございます」。

 

ベースランニングの準備中に監督と2人で話。いつもなら、ベースランニングも時間で区切ってやっていると聞き「全部、時間だとそこに合わせます。限界が来ないです。人間なので、合わせます。そこに体力が持つように、全力ではいかないです」。

二塁からホームへのべースランニングでは実演。生徒に「きれいに見えていたらなOKです。バタバタしていたらどこかがダメです。智弁和歌山から始まって、全ての学校で伝えていることです。(走る時に)手は前に振らないでほしい。手は後ろで振る。そのことを頭に入れて。第2リードは、(中腰の姿勢で、飛び跳ねず、静かに)イチ、ニ(歩)。これぐらいのイメージです」

「(走る前に)一発、声を出していこうか? よっしゃー!! って」と大声をあげ「これぐらいの感じ。声を出したら気持ちよくない? 筋肉も萎縮しない。そういう時間をつくると効果的」

午後4時半 練習終了。生徒の前であいさつ。

「今日、1日いて思ったのは、監督にも散々、伝えましたけど(練習を)時間で決めてしまうと、10分後に合わせてしまう。全力でいかないよね。本当に限界を見るには効果的じゃない。そういう時間をつくって、自分の限界を見て下さい。あと、やはり、声が…。明日、声を出してほしいんだけど。守備、鍛えられているように思った、最初は。でも、途中から物足りないところが見えてきた。(明日)最後、僕がノックします」

監督はイチロー氏が来た時ぐらいから富士山の雲が晴れたことを「持っている」と表現。それに応え「持ってますからね。そういうこと。みんな、会ってみてどうだった? 性格、『陽』だと思います。いつも下を向いているとそういうのが来ない。明日は(みんなも)元気を出して」