親友との夢をかなえる第1歩を踏み出した。プロ注目の最速146キロ右腕、阿南光(徳島)のエース吉岡暖(はる)投手(3年)が今大会完投勝利一番乗り。今春から解禁となった2段モーションの投球フォームで豊川(愛知)打線から11三振を奪った。豊川の注目の打者、モイセエフ・ニキータ外野手(3年)は大会1号アーチを放つも、初戦で姿を消した。明豊(大分)は敦賀気比(福井)にサヨナラ勝ち。高崎健康福祉大高崎(群馬)は学法石川(福島)に快勝した。

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最後の相手はモイセエフだった。7点リードの9回2死満塁。「運命かなと思った。三振を取るしかない」と8回に大会1号を許した打者を外角フォークで三振に。「とにかく負けるのが嫌だった。(1発の)借りは返せたかなと思います」と胸を張った。

今春から解禁された2段モーションで、豊川打線を手玉に取った。「ずっと前から自分で向いていると思っていた」と解禁決定を知るとすぐに取り入れた。「制球も球威も上がった」と手応え十分。注目のモイセエフから3三振を奪うなど、甲子園初見参で計11奪三振の快投。今大会初の完投勝利を挙げた。

幼なじみと語り合った夢が原動力だ。徳島を拠点に活動するラッパーのSPEC(17)とは津乃峰保育所、津乃峰小で一緒に過ごした。違う中学に通い、阿南光で再会したが、SPECは音楽の道に進むために1年で退学。家が近く、今も練習後によく会う。この日甲子園に駆けつけた親友は「『やっと甲子園か』って感じ。見られてうれしい」。試合当日の朝はビデオ通話で「『初回から飛ばしていく』ってめっちゃ気合入ってて。初めて緊張してるとこ見たね」と笑った。

吉岡は試合前、親友の楽曲を聞くのがルーティン。目標のプロ野球選手になれば、登場曲を作ってもらう。それが2人の約束。SPECは「プロに行ってほしいね。お互いが自慢しあえるような友達になったらベストやね」とほほ笑む。夢の実現へ、まずは大舞台で躍動する。【古財稜明】

◆阿南光(あなんひかり) 新野(あらたの)と阿南工が統合して18年に開校した県立校。センバツは新野時代の92年以来2度目の出場。前回出場時は1回戦で横浜に6回まで0-3も7-3で逆転勝ちしており、今回は大会32年ぶり勝利。夏は96年に2勝し、新校名となって以降は21年夏に初戦敗退していた。

◆監督の父子勝利 阿南光・高橋徳監督(41)が甲子園初指揮で初勝利。父広さん(元早大監督)は鳴門工監督時代に02年センバツ準優勝など通算12勝しており、今大会では星稜・山下智将監督に次いで監督父子勝利となった。