<全国高校野球選手権:常総学院6-0北照>◇9日◇1回戦

 常総学院(茨城)のドラフト候補、内田靖人捕手(3年)が、バックスクリーンに甲子園初本塁打をたたき込んだ。捕手登録ながら「4番三塁」で先発。4回に高校通算34号となる先制3ランを放ち、北照(南北海道)に勝利した。

 審判が腕を大きく回すまで、全力で走った。常総学院・内田は夢にまで見た1発をすぐには信じられなかった。0-0で迎えた4回無死一、三塁。3球続けて投じられた127キロの直球を「8割の力」で振り抜いた。全力で背走した中堅手が速度を緩めたのは、打球がバックスクリーン左で跳ねる直前だった。「ずっと想像してきた1発がようやく」。3季連続の甲子園で初めてアーチを描いた。

 予兆はあった。3日に大阪・四條畷市内で行った練習でフリー打撃をわずか2球で中止した。1球目に左翼への大ファウル。2球目に左翼に張られたネットを軽々越え、民家に直撃する特大弾を放ったからだ。同日に行われた甲子園練習でも2発放ち、あまりの好調さに佐々木力監督(47)が決断した。「内田の調子が非常に良すぎて早上がりさせました」と説明した。

 茨城大会の決勝でも甲子園出場を決めるサヨナラ2ランを放つなど、勢いが止まらない。春から飛距離を伸ばすために片足をあげるフォームに変更。夏の大会開幕前に「何かつかんだ」とタイミングの取り方を習得し、力みのないフォームで本塁打を量産している。

 高校通算本塁打はこれで34本となった。それでも母敬子さん(49)にホームランボールを渡したことがない。この日観戦に訪れた母は「あれだけ打っているんだから1球くらいくれてもいいのに」と笑うが、プレゼントしない理由がある。

 小学5年の時に父を亡くし、女手一つで育てられた。大好きな野球のために私学への進学を許してくれたこと、実家のある福島から茨城や甲子園まで応援に駆けつけてくれることに感謝している。だからこそ「高校の集大成である甲子園でのホームランボールを渡したかった。やっと恩返しできた」と笑顔がはじけた。

 昨夏の甲子園では1勝したものの、2回戦で桐光学園(神奈川)の松井裕樹投手(3年)に19三振を喫した。「自分が打てばチームも勝てる」。屈辱をバネにした主砲は、両手に抱えきれないほどのホームランボールを母に送りそうだ。【島根純】

 ◆内田靖人(うちだ・やすひと)1995年(平7)5月30日、福島県いわき市生まれ。小学校2年から野球を始め、中学ではいわき松風クラブに所属し全国ベスト8。憧れの選手は元ソフトバンクの小久保裕紀氏。目指す打者は日本ハム中田翔。よく聞くアーティストは「GReeeeN」。50メートル6秒6、遠投110メートル。185センチ、87キロ。右投げ右打ち。