<全国高校野球選手権:日本文理6-5富山商>◇21日◇3回戦

 甲子園が「文理劇場」の土壇場ドラマに、再び沸いた。日本文理(新潟)が富山商との北陸勢対決を制し、準優勝した09年以来の8強に進出した。4-5の9回1死一塁で6番新井充内野手(3年)が、左翼席へサヨナラ2ランを運んだ。逆転サヨナラ弾は大会史上5本目。新潟大会準決勝から5戦連続となる逆転Vを呼び込んだ。

 一瞬の逆転劇に、甲子園が静まり返った。日本文理の敗色ムードが漂った9回1死一塁。快音を響かせた新井の打球が一直線に左翼席中段へ突き刺さり、三塁側アルプス席から大歓声が起こった。祈るように見つめていたナインが、笑顔いっぱいにグラウンドへ飛び出した。

 2点リードの8回。4点を奪われ1度は逆転を許した。新井は1点を追う場面で打席に入った。「次の人につなげよう」。控えめな思いとは裏腹に、体は2球目の絶好球を芯で捉えた。「真ん中、やや内寄りのストレート。生まれて初めてあんないい打球を打ちました」。1回戦の大分戦に続く公式戦2発目が、一瞬にしてお祭り騒ぎに変えた。

 新潟大会決勝も、小太刀の9回1死からの逆転サヨナラ3ランで3季連続の甲子園をつかみ取った。甲子園では伏兵の一打が、県大会準決勝から5戦連続の逆転劇を生んだ。新井は6回無死一塁で3バントに失敗。「打つか、バントか迷いました」とノーサインで敢行し、裏目に出た。ベンチに戻ると大井道夫監督(72)に一喝された。「『お前だから打たせてるのに何やってるんだ!』と怒られました」。汚名返上の一念が逆転サヨナラ弾となり、「チームにいい勢いを与えられたかなと思います」と、端正な表情を緩めた。

 準優勝した09年以来となる8強入り。甲子園10勝目を飾った監督は、「ああいう場面で大きいのが打てるのは感心」と、雷を落とした新井の活躍にご満悦。試合後は、全員に一足早い“ご褒美”を出した。「私は栃木出身だからギョーザでも買ってあげようかと。子ども(選手)たちも好きなんですよ」と、ギョーザを夕食時に振る舞った。宇都宮工のエースとして59年夏の決勝で涙をのみ、悲願の頂点まで、あと3つ。選手は監督に、大優勝旗という“お返し”を渡すつもりだ。【和田美保】

 ◆サヨナラ本塁打

 09年河合完治(中京大中京)が関西学院戦で放って以来で大会通算18本目。逆転サヨナラ弾は04年清水満(東海大甲府)以来で5本目。

 ◆新潟県勢の1大会3勝

 09年に2回戦から4連勝で決勝進出した日本文理以来、5年ぶり2度目。09年は決勝で中京大中京に9-10で敗れた。