<全国高校野球選手権:木更津総合6-1鳥取西>◇2日◇1回戦

 木更津の「スグル」が、10奪三振の完投スタートを切った。第90回全国高校野球選手権大会が2日に開幕し、木更津総合(東千葉)の左腕田中優(すぐる)投手(3年)が、鳥取西を6安打1失点に抑え6-1で1回戦を突破した。

 カクテル光線を浴びた田中が、フッと息を吐いて地引雄貴捕手(3年)とハイタッチを交わした。90回記念大会の初日にふさわしい、10奪三振の完投勝利。「今までやってきたことが出てうれしい。ピンチになったら三振を狙いにいった」。低めに沈み、ワンバウンドする鋭いスライダーに、鳥取西のバットがクルクルと回った。

 同点で迎えた8回表、女房役がビッグプレーでもり立てた。1死一塁から、ファウルグランドに飛んだ小飛球に183センチの体を伸ばして飛び込んだ。8回裏には三塁強襲の二塁打で5得点の口火を切った。強肩で盗塁も2度刺し、ドラフト候補の実力を発揮。田中は「頼もしいやつです」と、タッグでの勝利を喜んだ。

 甲子園で勝つ「スグル」を見るのが両親の夢だった。作新学院時代から江川卓氏(元巨人)の熱烈ファンだった母十見枝さん(46)が「優」を「スグル」と読ませた。家には現役時代のビデオが数十本。幼少時から繰り返しイメージトレーニングを積んだ。最速は自己最速の138キロを出した。タイプは違うが、甲子園で同じドクターKの片りんを見せた。

 登板前、マウンドのプレートにそっと手を置いた。今年3月に火災のため1学年下の野球部員だった斎藤優太さんが亡くなった。「優太、やっとこのマウンドに上がれたよ」と心の中でつぶやいた。5回には打球が左足を直撃。「痛かったけど、痛いそぶりを見せたらみんなが不安になる」。最後までマウンドを守った。

 次戦は強豪智弁和歌山と対戦する。前回出場時は1勝で甲子園を去った。「木更津キャッツアイ」より「ルーキーズ」を愛するという新世代が新たな歴史に挑戦する。【前田祐輔】