<全国高校野球選手権:本庄一5-4開星>◇5日◇1回戦

 初陣の本庄一(北埼玉)がブラジル人留学生の大活躍で初戦を突破した。奥田ペドロ内野手(2年)が同点で迎えた9回裏、バックスクリーンに飛び込む本塁打を放ち、開星(島根)にサヨナラ勝ちした。

 サンバのリズムに乗った本庄一の大応援が突然、沈黙した。奥田のバットが鋭い金属音を発した直後だ。次の瞬間、打球はバックスクリーンに吸い込まれた。奥田は精いっぱいの日本語で喜びを表した。「ハイ、やりました。スライダー、思い切りスイング。気持ちいいデス。超うれしい」。

 4-4で迎えた9回裏、無死だった。3球目のスライダーを思い切り振り抜いた。打席に入る前、須長三郎監督(51)からこんな声がかかった。「思い切ってロング、ロング」。期待通りのアーチだった。体育を教える山浦秀一部長(37)は「身体能力は抜群。サッカーはそんなにうまくないですけど」と評した。

 本塁を踏んだ奥田は右手を突き上げ、心の中で叫んだ。「お母さん、元気になってください」。今年の3月、故郷サンパウロで母ローザさん(55)は10時間に及ぶ脳腫瘍(しゅよう)の手術を受けた。奥田も帰国し、2カ月間付き添った。手術は成功したが、看病したいと再来日を拒否した。戻らせたのはローザさんだった。「私のことは心配しないで。日本で一番になりなさい」。

 奥田は、伊藤ディエゴ投手(2年)とともに1年半前に日本にやってきた。2人は幼なじみで、ブラジル選抜に所属していた。夢は甲子園とプロ入りだ。そんな奥田が大阪入り後に発熱を訴え、練習を休んだ。取材攻勢を受け、理解できない言葉の悩みがあった。ストレス性のものだった。

 悩みは夢舞台を踏んで吹っ飛んだ。2回の2点適時打を含め、2安打3打点の大活躍だ。ブラジル日本移民100周年の今年、大会後には選抜チームがブラジル遠征を行う。「ブラジル?

 行きたいデス」。奧田はローザさんに朗報を届けたいと、次戦からの大暴れも誓った。【米谷輝昭】