<高校野球北北海道大会>◇24日◇1回戦◇名寄地区予選

 北緯45度、日本最北の球場から夏の甲子園出場を懸けた高校球児の戦いが始まった。第92回全国高校野球選手権の北北海道名寄地区予選が稚内大沼で開幕。夏の公式戦21連敗の剣淵が5-1で豊富との開幕戦を制し、創部28年目で待望の1勝を挙げた。2年生左腕の東海林久典投手が14三振を奪う140球の粘投で、記念の勝利に花を添えた。

 剣淵ナインは試合後、自分たちが成し遂げた快挙を初めて知った。桜沢大輔監督(28)が初めて夏の大会で勝ったことを伝えた。監督自身は、夏22試合目のこの試合に勝てば初勝利ということを知っていたが、あえて選手に伝えていなかった。「楽しんでこい」。そう言って、グラウンドに送り出した。

 「調子が良かった。直球が走っていました」。左腕エース東海林が4回まで7奪三振、被安打2と豊富打線を無得点に抑えた。打線は5回表1死一、三塁から東海林の右犠飛で先制した。6回に5長短打で4点を追加。その後は豊富の反撃を1点で止めた。勝利の瞬間はバッテリーがハイタッチしただけで、派手なパフォーマンスはなかった。11人の選手が最北の球場に夏初めての校歌を響かせた。

 投打に殊勲の東海林は勝利投手、2ケタ奪三振、安打、打点とすべて公式戦初体験だった。「奇跡です」と笑った。大会前のチームは練習試合7連敗、19日天塩2連戦の最後の最後で初めて勝った。それでも冬場は人工芝の町営ゲートボール場で毎日汗を流すなど、努力を積み重ねてきた。今年は小差の敗戦が多くなり、自信が宿っていた。

 83年創部で、84年春に公式戦初出場。過去、春と秋の公式戦は勝っていたが、夏はどうしても勝てなかった。長かった、高かった壁をようやく越えた。7回から守備固めで主将の真鍋朋裕(ともひろ)内野手が右翼に就いた。ケガのためベンチを温めた伊藤孝之外野手、太田里奈スコアラー(いずれも3年)とともに全員でつかんだ1勝だった。

 苦節28年。その道のりは校歌の3番歌詞が表している。

 風雪を凌ぎてここに

 百千々

 花咲き出でぬ

 (中略)

 友どちの強気足取り

 剣淵高校

 光あまねし

 試合開始前に曇っていた空は、試合後、剣淵の初勝利を祝福するかのように、夏の明るい光があふれた。【中尾猛】