ヤンキースとジャコビー・エルズベリー外野手(36)が年俸支払いを巡って対立し、注目を集めている。13年オフに7年1億5300万ドル(約168億円)の大型契約でライバル球団レッドソックスから移籍したエルズベリーは、度重なるケガのため18年以降は全試合欠場。契約を1年残し、11月20日に球団から放出された。

数日後、ヤンキースが残り契約金2600万ドル(約28億6000万円)の支払いを拒否していることが判明。ケガ離脱中に球団が承認していない医療施設で治療を受け、それが契約違反に当たるというのが拒否の理由だが、選手会側がこれに異議を唱え真っ向から対立している。エルズベリーが野球によって負ったケガを承認されていない施設で治療すれば契約違反となるが、野球とは関係のないケガや病気の治療であれば違反にはならないため、そこが争点だ。

ヤンキースは、エルズベリーが完全離脱していた18、19年の年俸約4200万ドル(約46億2000万円)に関しては、75%を保険で補■(ほてん)できているが、残りの2600万ドルに関しては保険でカバーできないそうだ。このままでは、解雇した選手に全額支払わなければならない。それを断固拒否するために強硬手段に出たわけだが、この金銭闘争は、両者の関係がいかに冷えきったものであるかを示していると思う。大型契約を結んだベテラン選手が契約期間の終盤にケガで長期離脱するというのはメジャーでよくある話だが、これ以上プレーができないという状態なら両者間の話し合いで契約満了前に円満引退するなど、穏便に解決することが普通だ。このような闘争に発展するのは、よほど関係がこじれていなければ起こらない。

エルズベリーがヤンキースに移籍した当初、懸念する声は上がっていた。長打力を示したのは32本塁打を放ったレッドソックス時代の11年だけだったが、ヤンキースは左打者に有利なヤンキースタジアムなら長打が復活するだろうと楽観し、ちょうど14年で引退するデレク・ジーター氏に代わるチームの顔になってくれるだろうと過剰な期待をかけた。しかし期待したように本塁打の数は伸びず、ジーター氏のようなリーダーシップを発揮するようなタイプでもなく、チームで浮いた存在となった。

今年8月にヤンキースタジアムに取材に行った時、ブーン監督が地元記者にリハビリ中のエルズベリーについて質問を受ける場面に遭遇したが、同監督は「彼が復帰してくるとは考えていない」と冷ややかに答えていたことを思い出す。その時にはすでに、エルズベリーとの決別が決まっていたのかもしれない。しかしヤンキースは、エルズベリーが契約違反をしていたと明確に証明しなければ支払回避は難しいとみられており、泥沼の金銭闘争が長期化する可能性も指摘されている。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

※■は土ヘンに真の旧字体