2017年に球団史上初の世界一に輝いたアストロズが当時、公式戦、さらにワールドシリーズに至るまでサイン盗みを繰り返していたことが告発され、米球界を揺るがしています。元アストロズの選手、関係者らが、米メディアに生々しく証言。その結果、大リーグ機構が本格的な調査を開始し、実態の究明が進められています。

サイン盗みと伝達は、日本球界にも約50年前から存在し、昨今は高校球界でも不正行為への注意喚起がされました。今回のアストロズの場合、最先端のカメラやモニターなど解析度の高い電子機器を使用するなど、組織的な疑いが極めて強く、調査結果次第では、機構側も断固たる処置をとると言われています。今や全米で大人気のテレビコメンテーターとなったアレックス・ロドリゲス(元ヤンキース)は、今季のポストシーズンの中継で、再三のようにアストロズの疑惑を指摘。今回の告発後は、「人間がやるのと、機械を利用するのはレベルが違う」とコメントするなど、周囲の批判は強まるばかりです。

というのも、2000年代までは、二塁走者として捕手のサインを身ぶり手ぶりなどで打者に伝達した選手は、次の打席でブラッシュボールや死球報復を受けることが珍しくありませんでした。事の是非はともかく、それらの際どい応酬は、互いに暗黙の了解の範囲内でした。A・ロドリゲスの言う「人間がやる」というのも、ルールブックに記されていない球界内の“おきて”を踏まえた上での発言とも言えます。

その一方で、相手のクセを“盗む”のは、サイン盗みとは、かなり違う種類のものではないでしょうか。日本語で“盗む”と表現すると悪いことのようですが、基本的には“見抜く、見破る”という意味合いだと解釈しています。

「なくて七癖」ということわざがありますが、本人が無意識でも、クセは出てしまうものです。例えば投手の場合、球種によってグラブの向きや動きだけでなく、構えによってユニホームのシワまで変わったりするケースもあります。そのクセに気付く打者もいれば、全く気付かない選手もいます。裏を返せば、一流投手ともなれば、クセが出ないように訓練するのも当然のことです。

巨人のV9時代、エースとして活躍した堀内恒夫は、当時「世界の盗塁王」と呼ばれた阪急福本豊とオールスターで対戦した際、細心の注意を払いながらも二盗を許しました。その時、一塁けん制と打者へ投げる際のクセを見抜かれたと察知しました。

では、どう対処すべきか。

その年の日本シリーズで、巨人と阪急が対決することが決まると、堀内はこれまでのクセを逆利用するフォームに修正する案を思い付きました。さらに、超高速クイックで福本の快足を封じたことを、後日談として、かなり得意顔で語っていました。その際、シリーズに敗れた福本が堀内本人の前で苦笑しながらも、素直に完敗を認めていたことを思い出します。

この堀内VS福本の攻防には、互いに“盗む”という言葉のようなネガティブな思考はありません。むしろ、超一流のプロ対プロとしてのプライドが込められています。

最新のテクノロジーを利用した“盗み”と、一流の感性に基づいて見抜く“眼力”。近年のサイン盗みと、クセの見破りは、同じ次元で論議するべきものではないような気がします。(敬称略)

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)