<レッドソックス2-4ナショナルズ>◇9日(日本時間10日)◇フェンウェイパーク【ボストン(マサチューセッツ州)=四竃衛】大輔が、帰ってきた-。昨年6月10日(同11日)に右肘腱(けん)移植手術を受けたレッドソックス松坂大輔投手(31)が、ちょうど1年が経過した日にナショナルズ戦でメジャーに復帰した。昨年5月16日以来390日ぶりの先発で5回、80球を投げ、1本塁打を含む5安打4失点で敗戦投手となったものの、毎回の8奪三振。最速93マイル(約150キロ)の速球を主体とした力強い投球を披露し、完全復活へ向けて新たな1歩を踏み出した。

 目に映る景色、耳に響く歓声、メジャーの球場特有のにおいまでが懐かしく、うれしかった。ダッグアウトから足を踏み出した松坂は、五感の幅を広げてマウンドへ向かった。「あらためてこの場所に戻りたかったんだと思いました。この日が待ち遠しかった。ワクワクする気持ちを抑えるのが大変でした」。プレート前でしばしうつむき、じっと祈るように、1年間に思いをはせた。自ら「今日からスタートするよ」と言い聞かせると、初球には迷うことなく、92マイル(約148キロ)の速球を投げ込んだ。

 長く、苦しかった分だけ、込み上げる感情も深かった。「初めてというぐらい緊張しました」。初回は3球三振でスタートし、3者凡退。地元ファンの大歓声が、復帰を実感させた。

 昨年5月末、ロサンゼルス市内で検査を受け、手術を決断した。手術歴のある桑田真澄氏らの経験談にも耳を傾けた。2~3年で引退するのであれば、回避も可能だった。だが、迷う間もなかった。すべては「あと10~15年プレーする」ため。すぐに前を向いた松坂に、背後を振り返る作業は不要だった。

 それでも、リハビリは過酷だった。切開部分がケロイド状になるのを避けるためのマッサージは、縫い目から血が滴るほど。激痛に耐えるたびに、脂汗が噴き出した。食事は左手ではしを使い、ボールも握れず、先が見えない日々。自分が投げる姿が想像できず、テレビで野球を見ることさえできなかった。

 ただ、前向きな姿勢だけは崩さなかった。米国での過去5年、理想の投球には程遠かった。だからこそ、この時期を逆利用した。徹底的に下半身を鍛え、投球フォームの根幹を作り直した。「スタート地点に戻るまでに、できることはやってこられたと思います」。今年4月、過去1年間のうち9カ月を過ごしたフロリダ州フォートマイヤーズを後にした時点で、松坂の体は手術前とは別人のように引き締まっていた。

 390日ぶりのマウンドでは、力で押した。速球で16球のファウルを打たせ、カウントを稼いだ。動く球よりもフォーシームを主体とする力勝負。黒星こそ喫したものの、目指すスタイルを明確に示す80球だった。「いろいろな人のサポートを受けてきた。本当に感謝の気持ちでいっぱい」と周囲の支えに感謝し「手術前とは違う姿を見せたい。それができると思いますし、そういう可能性が見えた試合だったと思います」と、今後への決意を口にした。この日の感慨は一生、忘れない。だが、松坂が本当に目指してきたのは、復帰だけでなく、完全復活以外にない。