巨人吉川大幾内野手(22)が、坂本不在の穴を見事に埋めた。体調不良のキャプテンが練習を途中で切り上げ欠場。ゲーム直前に「7番遊撃」を告げられた。2安打1打点に加えて守備も非常に堅実で、ヒーローインタビューまで到達した。こんな男が控えているから巨人は強い。

 試合前のシートノックを坂本がベンチで見つめていた。ショートに1人、吉川が入った。打撃練習を一番後に終え、本番と変わらぬ本気で守った。「練習の最後くらいにスタメンを告げられました」。キャプテンの代役として、首位攻防の第1ラウンドに「7番遊撃」で抜てきされた。

 先頭で迎えた3回の第1打席、相手は館山だ。2球で追い込まれた。決めにきた外角145キロに対し、内側から素直に、でもシャープにバットを出した。チーム初となる中前打で「館山手ごわし」の空気を変え、先制ホーム。1点差とされた7回、無死一、三塁の絶好機も、愚直に同じスタイルを通した。1打席目より遠く、しかも低い外角。「三振だけはダメだと。何とか」。左前に運んで難敵を沈めた。

 ヒーローたる一番の理由は、打撃じゃなくて遊撃の守備だろう。不慣れな福島の黒土でも足がよく動き、スローイングも正確無比。不動の遊撃手と何ら、遜色なかった。「逆に急だったので、意外とすんなり試合に入れました」。プレーの躍動と対照的な遠慮がすがすがしかった。

 けれん味がない。朗らかさを隠さず、仲間に溶け込み愛される。宿舎の食事では原監督ら首脳陣のテーブルに呼ばれ場を盛り上げるムードメーカー。決起集会でもみんなを笑わせ、一枚岩に一役買っている。原監督の「吉川らしい、思い切りの良さが出ていた。坂本にだって引けを取らない」もリップサービスじゃない。試合前に誰よりも練習し、素直に自分をさらけ出せる22歳を認めている。【宮下敬至】