毎年年末になると、スポーツ紙には戦力外通告を受けたプロ野球選手たちの“進路”が掲載される。セカンドキャリアというやつだ。球界に残ったり、飲食店を経営したり、方向性はさまざま。元巨人ドラフト1位の辻内崇伸氏(27)は、指導者と会社員、二足のわらじを選んだ。

 女子プロ野球、埼玉アストライアで、午前は投手コーチ、午後は営業マンの顔を見せる。今年で2年目だ。「去年は試合前のシートノックも打ってたんですけど、お客さんは入ってるし緊張しちゃって。最初はバットに当たらなかったです。難しいですよ、ノック」。選手時代とは違った野球の難しさに四苦八苦しながら、楽しそうに笑う。

 戦力外を告げられた直後はもう、野球から離れたかったという。「戦力外って、我を失うんですかね。あの年、『クビ』って言われて、泣いてた人がいたんです。でも自分、1人だけ笑ってて。泣く気持ちが分からなかった。不完全燃焼で『もっとやりたい』って思う人は涙が出るんでしょう。でも僕は、『やっと解放される-』って思った」。

 現役時代、度重なる故障、ケガの痛みと戦いながら、投げ続けた。「別の仕事をしようって、思ってました。でも嫁が、『ずっと野球をしてきたんだから』って。長いこと話し合って、また野球に携わることにしたんです」。

 “巨人のドラ1”から、生活は激変した。同じ野球といえど、「わかさ生活」の社員であり、いち会社員になった。「金銭感覚とか、全部変わりましたね。タクシーじゃなくてバス、自転車に乗るようになった。小遣いも、嫁にあげる側からもらう側になりました。前みたいに夜飲みに行けないし、パチンコも行けない(笑い)。普通の感覚に、戻ったと思います」。

 巨人時代のファンは、今も女子野球の現場に足を運んでくれるという。「結局、まだ野球したいって気持ちが自分の中にあったんだと思います。野球から離れられないんだなって。充実してます。転職して、よかったです」。これもまた、華麗なる転身と呼ぶのだろう。【鎌田良美】