古巣で第2の人生をスタートさせる。広島から戦力外通告された久本祐一投手(37)は、打撃投手として中日に復帰することが決まった。打者を抑えることをなりわいにしてきた左腕が、打たれることを本業とする。「肘を治して、もっとファンに頑張っている姿を見せたかった」。12年まで過ごした名古屋で、悔しさとともに新たな人生を歩み始める。

 戦力外通告後も、現役にこだわった。すぐに中日から電話をもらったが、「打撃投手」の打診を受け入れられず、トライアウトを受験。他球団からの電話を待った。周囲から合否の期限と言われていた2日後の深夜に電話が鳴った。中日からだった-。すると編成担当者はすぐに落合博満GMに代わった。「オファーがなかったら帰ってこい。お前だからだぞ」。恩師との数分のやりとりで久本は古巣復帰を決断した。

 移籍した13年の広島はまだクライマックス・シリーズ出場の経験もなかった。「何が違うのか感じたかったし、それをみんなに気づいて欲しかった。言葉でも練習のやり方でも気づいてもらいたかった」。初めて参加した広島春季キャンプでは、投手陣では誰よりも遅くまで残り、汗を流した。「春季キャンプで追い込まないと大事なシーズン終盤で力を発揮できない。みんなと同じことをやっていてはだめ」。常勝球団の伝統を背中で示し、同年、チームは初めてCSに進出した。久本の思いは広島ナインに伝わり「徐々に変わっていくのを感じた」。Aクラス請負人として、広島の25年ぶり優勝を見届け、久本は赤いユニホームを脱いだ。

 今もなお、現役選手と同じ情熱を持ち続ける。「打撃投手でも、打たせようとは思わない。今の中日の選手には、俺の球を打てなければ1軍でやれないよと、感じてもらいたい」。新たな使命を胸に、次なるステージへ向かう。【広島担当=前原淳】