ぶれない「頭」が、最速158キロのカギだった。西武のエース菊池雄星投手(26)が自己最速を1キロ更新する左腕史上最速となる158キロをマークし、8回11奪三振1失点で、リーグトップの11勝目を挙げた。2軍戦ではソフトバンク川原が158キロを記録したことはあるが、1軍の試合では15年に自身が初めてマークした157キロを更新。打線は11安打8得点と圧倒し、西武黄金期だった91年以来の12連勝で、2位楽天に4ゲーム差に迫った。

 歴史に名を刻む1球が、楽天ウィーラーの胸元に伸びた。5回無死、カウント1ボール2ストライクからの6球目。菊池が投じた内角高めへの直球が、日本人左腕史上最速の158キロをたたき出した。

 15年に自身が初めて記録した自己最速157キロを、2年かけて1キロ更新。ヒーローインタビューに立つと「気持ち良かったです」と大粒の汗をぬぐった。衝撃の1球は、わずかにボールゾーンへ外れたが、助っ人の腰を引かせるには十分の球威とコース。続く7球目は144キロのスライダーをひざ元、内角低めにワンバウンドさせ、空振り三振を奪った。

 もはや追い掛ける存在は、105マイル(約169キロ)左腕のチャプマン(ヤンキース)だけなのか。「三振を狙いにいった時も、がむしゃらじゃなくて、力の強弱を入れた」と、力まずに腕を振った。テーマにするのは、調子がいい時のフォームを常に繰り返す再現性。今年に入って、陸上100メートル、200メートル世界記録保持者のウサイン・ボルトや、ボクシング・ロンドン五輪金メダリスト村田諒太ら、他の競技の映像も見て研究を重ねるようになった。

 「一流は頭がぶれないんです」。頭を一定の位置に保つことで、投球時に体の軸が安定する。力まずに、最大限の力を指先に込める。トップアスリートから学んだことを、すぐに投球に生かす懐がある。直球にスライダー、カーブ、チェンジアップも織り交ぜ11奪三振。球場を支配するかのような圧倒的な力で、楽天を寄せ付けなかった。

 エースの力投で、西武黄金期だった91年以来の12連勝。試合直前には肩まわりに違和感を覚えたが、試合に入ればすぐに回復。辻監督は「打たれる気がしなかった」と絶賛した。160キロを狙うかと問われた菊池は、「頑張ります」と2万355人のファンに約束。まだまだすごみを増す期待たっぷりの、力のこもった115球だった。【前田祐輔】

 ◆過去の最高球速 スピードガンが普及した80年以降で、プロ野球最速は大谷(日本ハム)が記録した165キロ。16年10月16日のソフトバンクとのクライマックスシリーズで、吉村の打席で1球、本多の打席で2球記録した。左腕では菊池(西武)が15年9月13日ロッテ戦で157キロを記録。また2軍では、川原(ソフトバンク)が12年7月28日中日戦で158キロを記録している。