【3】選手会の態度の急変

 上記のように、山口選手の交渉窓口として当球団と協議を続け、新たな契約見直し案を進めるために動き出した選手会ですが、8月5日の協議後、態度を急変させました。

 同日夜、松本弁護士は球団側に「契約見直しは認められない」などと唐突に電話で伝えてきました。

 8月9日に行われた協議には、森事務局長と松本弁護士は、これまでの山口投手の交渉窓口としてではなく、選手会を代表する立場で臨んできました。冒頭、森事務局長は「山口投手は、引き統きジャイアンツでプレーできることにとても感謝している」と、山口投手が契約見直しに納得していることを球団に伝えたうえで、「(本日は)選手会としてお話ししたい」と切り出しました。

 松本弁護士は、選手会の会長や役員と話し合ったうえでの見解として、山口投手が処分を受けるのは当然だが、球団が提示した契約見直し案は、山口投手が今シーズン前半、故障のため出場できなかったこと、試合に出場しても大きな成果を上げられていなかったことなどを勘案してのことではないかと疑っている旨を伝えてきました。そのうえで、8月5日の協議結果を一転させ、選手会として、契約見直しは一切認められないとの立場を固持するようになりました。

 当球団は「選手会の意向はわかった」と理解を示したうえで、選手会が山口投手の交渉窓口でなくなった以上、契約見直しについては、契約当事者である山口投手と直接話し合いたいと要請しました。ところが、選手会側は、球団と山口投手との直接の話し合いの要請に対し、強い難色を示しました。このため当球団は、山口投手との契約見直しに関する協議で選手会を当事者とすることはできないと判断し、山口投手との話し合いに切り替えました。

 選手会は、山口投手の交渉窓口として協議を続けてきたにもかかわらず、山口投手と選手会との意見が相反するようになると、突然、選手会の代表の立場にすり変わり、引き続き球団と協議を続けようとしたのであり、当球団はとまどいを禁じえませんでした。

 以上が、当球団と選手会との間で行われた協議の概要であり、選手会のいう「複数年契約の見直しを迫り、これに同意しなければ契約解除(解雇)するとの条件を提示し続けることにより同意させました」「契約見直しを飲めないのであれば対象選手を解雇する、裁判で争われても構わない、との主張を繰り返し続け、最後には、契約見直しを飲めないのであれば話していても意味がない、と一方的に当会との折衝を打ち切り、社長自ら席を立ってしまう」との指摘は、事実の歪曲以外の何ものでもありません。

 選手会との最後の協議を終えた日の翌10日、球団は山口投手と直接面談しました。山口投手は、「選手会から、今回の契約見直しは、僕個人の問題であると同時に球界全体にかかわる問題だと言われている」などと、選手会との間で板挟みになっている状況を伝えながらも、「巨人でまたプレーさせてもらえる機会を与えてもらえたので、しっかり腹をくくって、もう一度自分自身を見つめ直して、巨人のために一生懸命頑張りたい」と決意を表明。当球団は、山口投手の契約見直しについての意思確認ができたとして、8月17日に正式に契約見直しを行い、翌18日に記者会見して処分を発表しました。

 言うまでもなく、契約見直しは山口投手と当球団との話し合いにより双方合意の上で行われており、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当しないのは明らかです。選手会側文書には「巨人軍が、本件を奇貨として不当な解雇を突きつけることで、金銭的な負担を軽くする意図があったのではないかと邪推せざるを得ません」との表記がありますが、これまでの説明の通り、球団側には、山口投手に対する処分や契約見直しについて、「金銭的な負担を軽くする意図」などというものは毛頭なく、文字通り事実に反した邪推にほかなりません。