<酒井俊作記者の旬なハナシ!>

 西宮、ニューヨーク、大阪、三田…。夢中で走ってきた道のりをねぎらう、心温まる胴上げだった。12日の練習後、独立リーグの兵庫でプレーする井川慶が監督、コーチ、選手ら18人の手で宙を舞う。続木敏之監督(59)は言う。「井川の存在もあり、みんな選手が励めて成長もできた1年間でした」。チームは今季、リーグ4連覇。優勝が決まった当日は発熱で不在だったため、奮闘をたたえた。

 14試合登板でリーグ最多の11勝。かつての阪神のエースは無敗の成績で頂点に導いた。それ以上に、かけがえのないものをチームにもたらした。木山裕貴捕手(23)は若い投手を諭す。

 「井川さんも、あれだけ考えて投げている。俺らのレベルやったら、もっと考えて、1球1球、意識しないといけない」

 木山は18・44メートルを隔てて井川と向き合った。ブルペンで学び、マウンドで勝負する。「1球1球、捕っていても、意味のある球なんです」。内角に構えれば、計ったように重い直球が来た。正確無比な制球力。ハイレベルな野球だった。続木監督にも「(ストライクゾーンの)横幅を使って配球しなさい」と後押しされた。内角を突く重要性は誰でも頭では分かる。だが、キッチリ投げ込んでくる井川の制球があってこそ、身をもって理解できるのだ。

 試合中も話し合いを重ねた。決して頭ごなしではなく、意見も求められる。ある時「あそこに投げて打ち損じてくれたけどプロなら打たれるよ」と言われたという。NPBを目指す木山の目線を上げてくれた、ひと言だ。若き同僚たちに溶け込んだ。主将の菖蒲海内野手(20)も、こんな言葉を聞いている。「プロはね、甘くなっただけ、ホームランにされる。甘い球はミスショットしない」。大リーグのヤンキースやオリックスでもプレーした足跡は、いつしか、後進が歩む道になっていた。志を伝え続けた井川の1年間だった。(敬称略)