カープのお家芸を見たり!! 生え抜き中心の強いチームを作ってきた王者の秘密に迫るべく「阪神目線」から、セ・リーグを連覇した広島の日南キャンプと日本一に輝いたソフトバンクの宮崎キャンプに潜入しました。第3回は広島の外国人編です。阪神と広島との差は「外国人」の差。そこに異論は挟めません。6月の交流戦で4戦4発デビューを飾ったサビエル・バティスタ内野手(25)の出現は球界を騒然とさせました。バラ色のオフかと思いきや、宮崎・日南で猛練習。緒方孝市監督(48)を直撃し、カープ伝統の「助っ人育成」に迫りました。

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 日南は日が傾いていた。練習の指導を終えた緒方孝市の口調が次第に熱を帯びていく。「ウチはずっと、そうやってきたから」。その言葉を聞いて4年前に見た光景を思い出した。米国シカゴ。大リーグ・カブスのロッカールーム。若い選手がどかっと革張りのソファに身を沈めて談笑するなか、いつも自らのブース前の椅子に座り、背中を丸めてiPadを覗き込んでいる選手がいた。打撃映像に見入るのはベテランのアルフォンソ・ソリアーノだ。

 「マエダさん、オガタさん、ノムラさんだろ。ユウも覚えているよ」

 ユウとは、広島2軍の本拠地、由宇球場だ。14年を最後に現役引退し、メジャー通算2095安打、412本塁打を放ったスーパースターは若かりし頃、実は広島でプレーしていた。

 97年9試合出場2安打

 NPBに残した足跡は、わずかこれだけ。だが、当時の主力選手の名前を忘れることはない。色濃く刻んだ日々だったのだろう…。

 あれから20年以上がたった。広島のキャンプ潜入3日目だ。野球記者はキャンプ中、指先でカチッカチッとカウンターを連打する。「694」。さて何の数字でしょう? カープの強さの秘密を追ってきたが、一日中、刻み続けた数字を見て、またもや驚かされた。

 コレ、カープの外国人選手、バティスタが球場に着いてから帰るまでの合計スイング数なのだ。今年6月に支配下選手登録されるとデビュー戦から4試合で4発。今季11本塁打を放った大砲だが、メヒアとともに秋季キャンプで大汗をかいていた。助っ人なのに、この時期に、なぜ、バットを振りまくるのか。そもそも、助っ人なのに、なぜ、秋季キャンプにいるのか。みんな、続々、帰国していく時期だ。もちろん、阪神でも見られない。この疑問を一笑に付したのは緒方だ。

 緒方 あの子たちは「助っ人」で入ってきたわけじゃない。ドミニカ共和国の選手で、身体能力はすごく優れている。でも、最初、野球を全然、知らないのを見ているからね。そのなかで伸びしろを感じた。日本人選手と意識的に扱いは一緒。野球をイチから教える。外国人選手を「助っ人」に育てる意味合いだから。

 2人は広島が90年に同国で創設したカープアカデミーの生徒だった。15年秋から、練習生として秋季キャンプに参加。粗削りだがキラキラ輝く。緒方はダイヤモンドの原石を見た。「ものすごく取り組む姿勢が真面目。どんな練習をしても貪欲で、日本人の若手と同じ練習量を文句1つ言わずやる。野球を吸収したがっている」。キャンプ初日には11カ所打撃でも延々2時間以上、バットを振った。連続ティー打撃でヘロヘロになり、守備でユニホームは泥まみれになっていた。

 積極補強路線の阪神や巨人と一線を画し、原石の外国人を「助っ人」に育てる方針を貫いてきた。

 緒方 バティスタも1年半かけたからね。去年は1年間、育成として2軍で試合に出させた。ドミニカの選手は、育成でしか考えていない。完成された選手が来るなんて思わないから。

 でも文化がまるで違う。モーレツな猛練習、ホントのところ、どう思うのか?

 バティ 最初は、ちょっとビックリしたよ。でも早めに慣れないといけない。

 メヒア 長くてキツイけど、うまくなるためさ。

 バティ カープアカデミーから入ったし「日本人」みたいに練習しないとね。

 とにかく殊勝で前向き。スラッガーが努力すれば鬼に金棒だ。今季、外国人打者が機能しなかった阪神からすれば、うらやましすぎる。しかも、緒方は「バティスタも、今年は経験させるくらいでしか思ってなかったから。本当の意味では来年、中心選手として期待している」と恐ろしいことを言う…。取材時間が尽きた。帰り際、緒方は不敵に笑う。「いい気分転換になったやろ」。濃密な練習量、実戦的な工夫、常識破りの外国人育成…。ため息をつきながら、車で宮崎県を北上した。(敬称略)