楽天の星野仙一球団副会長が4日午前5時25分に死去した。70歳だった。担当記者が悼む。

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 11年の6月、試合前のベンチ裏に呼ばれた。「デーブを呼びたい。今のウチには、ああいう元気な男が必要だ。今、裁判をしている。やめさせること、できるかな」。星野監督の後任を務めることになる大久保博元氏は当時、西武と係争中だった。

 コーチ業の地位保全が争点だった以上、入閣の要請は裁判の取り下げを意味していた。10月3日、状況が整ったことを報告しようと札幌のホテルに先回りした。首で招かれ部屋で説明すると、おもむろに腕を組んでマルボロライトをくゆらせ「分かった。書いていい。書く権利がある」とドスの利いた声で言われた。

 部屋を出ようとすると「待て」と止められた。「下に人がいるかもしれない。お前がエレベーターから降りてきたら怪しまれる」と、なぜか支配人を呼んだ。人がいると聞くと「悪いがコイツが絶対に人に見つからないよう、ホテルから逃がしてくれ」と頼んだ。

 誰も意味が分からないまま「こちらです」と2人のホテルマンに護衛され、非常口方向へ。細い通路を何度か折れ、警戒して業務用エレベーターに乗り、地下2階の駐車場から脱出した。翌朝、開口一番で「派手にやったな…で、どうだったんだ」と聞かれた。「おかげさまで無事に、誰とも会わずにホテルを離れました」と答えると「そうか…無事に脱出したか…」と大きくうなずいて、マルボロライトに火を付けた。

 求めていた大久保氏の入閣がかなった満足もあろう。ただ思えばあの時、監督は間違いなく単純に、秘密裏に事を運ぶスリルを楽しんでいた。野球で成し遂げた事の大きさは疑いようもない。喜怒哀楽すべてに振り切っている人間味も疑いようがない。私は「楽」こそ、星野仙一最高の魅力だと疑わない。

 秋田の温泉にオーバーホールに行ったはいいが、効能が強すぎ“キン○マ”2個がタヌキのように腫れ上がり、おばあさんに照れつつ軟こうを塗り込んでもらった話。アウトレイジな男たちにこよなく愛され、偶然相乗りになった新横浜駅の新幹線ホームで一直線に並ばれ、最敬礼の中でグリーン車に乗り込んだ話。グラウンドではありえない顔で、身を乗り出しての語りが忘れられない。

 「楽」こそ人生を彩ると教わった。天国でもバルタン星人のような「フッフッフ」のバリトンで笑っているはず。ありがとうございました。(11年楽天担当・宮下敬至)