巨人山口俊投手(30)が名古屋で再出発の勝利を挙げた。今季初先発の中日戦で粘投。6回7安打3失点に抑え、チームを3連勝に導いた。昨年は暴力トラブルを起こし、同7月18日の同じナゴヤドームでの先発を取りやめ、謹慎生活を送った。再起を期す今季の初陣で昨年7月9日の阪神戦以来268日ぶりの公式戦マウンドで、同6月14日ソフトバンク戦以来の白星。高橋由伸監督の43歳の誕生日に最上のプレゼントを届けた。

 苦しんだ先に待ちわびた勝利があった。山口俊は汗をぬぐった。6回、走者一掃の適時打を浴びて1点差に迫られた。1死三塁。平田を追い込むも7球目の外角低め直球がボールの判定。顔をゆがめたが逃げない。辛抱強く、再び外角へいっぱいに逃げる130キロのスライダーで三振に仕留めた。2死にこぎ着け、松井雅を3球勝負で連続三振に仕留めると、大きく息を吐いた。「収穫は勝ち越されなかったことと2つ三振を取れたこと。でも前の段階で抑えないと」と293日ぶりの勝利も笑みはない。

 止まっていた時計の針を動かした。自ら起こしたトラブルで昨年は謹慎生活。自分と向き合い、律するための時間を過ごした。孤独な練習でも、野球ができる体があると前を向いた。シーズン前に目にした新聞で高橋監督が「山口俊」の名前を挙げて巻き返しの期待をかけてくれていることを知った。「今年は2倍じゃないけど、活躍しないと。FAで来た意味がない。結果を出さないと謹慎期間に何をやっていたんだということになる」。結果こそが価値の証明と信じた。

 階段を上り、信頼を取り戻すチャンスを得た。キャンプ初日からチーム最多の111球を投球。オープン戦では3試合で防御率2・08と結果を残した。約8カ月ぶりに戻ってきたナゴヤドームのマウンド。イニングを重ねるごとにファンからの声援は増した。「期待を裏切らないように1試合1試合を積み重ねていきたい」と、久々の公式戦マウンドはあたたかかった。

 白星は指揮官への誕生日プレゼントになった。祝いたい相手がもう1人いる。3歳になった愛娘だ。「子どもの前では格好いいお父さんでいたい」。野球人として、父親として、決して恥じることのない道のど真ん中を歩いていくと家族にも誓った。この日は6回96球で降板。昨年も6回の壁は越えられなかった。「6回に点を取られて降板したのが反省。完投できる投球をしないと」と満足はしない。ようやく始まった新しい1年。誰もが認める強い男になる。【島根純】