8年ぶりに古巣楽天に復帰した渡辺直人内野手(37)が、意地の一打を見せた。8日、ソフトバンク戦の9回無死一、三塁。2点を追う場面で代打で登場したベテランは、守護神サファテから9球も粘って右前適時打を放ち、1点差に迫った。試合は4-5で敗れたが、8回に3安打で3点をかえすなど打線に粘りと活気が出てきた。2連敗中で借金5だが、トンネル脱出の光は見えてきた。

 ありったけの思いを、バットに詰め込んだ。渡辺直は胸をたぎらせながら打席に立ちつつも、頭は冷静だった。2点を追う9回無死一、三塁。フルカウントから3球連続ファウルで粘った9球目。サファテの内角高め148キロ直球を振り抜くと、バットにひびが入りながらも、打球は飛び込んだ一塁高田の脇を抜けた。一塁まで一気に駆け抜けた背番号26は右手を振りかざし、こん身のガッツポーズを繰り出した。

 「三振だけはしないで、何とか三塁走者をかえせるように、次につなげたのは良かった。変化球で追い込まれていたので頭に入れながらも、詰まっていいところに打球が飛んでくれた。ただただ、うれしかった」

 涙の移籍会見から8年。再びクリムゾンレッドのユニホームに袖を通した37歳のベテランは、覚悟を決めて12年目のシーズンに臨んでいた。今キャンプでは「古巣で恩返しがしたい。楽天に取って良かったと思ってもらいたい。現役生活があと1年で終わってもいい」と徹底的に体をいじめ抜いた。開幕してからは、試合後に室内練習場にこもってバットを振り、ひたすら出番を待った。現役時代、楽天で渡辺直と苦楽を共にした高須打撃コーチは証言した。

 「試合の後もマシンを打って、いい準備をしていた。サファテの球でも合うと思っていた。いい結果を出してくれて良かった」

 ホームで期待に応えた渡辺直は胸をなでおろしていた。「あそこは打ってつないでくれると思って出してくれたと思う。いい場面で回ってきたので、しびれました。首脳陣、ファンの期待に応えたかった」。敗れはしたが、終盤に見せた怒濤(どとう)の猛追を収穫とする。渡辺直の一打が、湿った打線の着火剤となる。【高橋洋平】