あの日見たヒーローのように、阪神ランディ・メッセンジャー投手(36)がマウンドで子どもたちの視線を独り占めした。初回に失点したが、2回以降は丁寧に制球。カーブとフォークを低めに集めた。4回には無死二、三塁のピンチを背負ったが、ギアを上げて無失点。最後は東を149キロで空振り三振に打ち取った。7回6安打1失点でハーラートップの5勝目。防御率1・72もリーグトップとなり、2冠に。投げるだけでなく、バットでは5回2死一塁から中前打でつなぎ、上本の二塁打で一気に一塁から生還するなど足でも貢献した。

 ヒーローは、空を飛ぶように高くジャンプし、ゴールを奪い、最高にクールだった。メッセンジャーが幼き日に野球同様に夢中になったのが、バスケットボールだった。憧れたのはマイケル・ジョーダン。NBAシカゴ・ブルズの大ファンで、当然のように自らもコートに通い、プロ野球の世界に入るまで真剣に打ち込んだ。ポジションはジョーダンと同じ「パワーフォワード」とし、さらに「ジョーダンみたいだったんだぜ」と笑う。

 バスケにも野球にも夢中だった。だから子どもたちにメッセージを求められると、シンプルに言葉をつないだ。「何であれ、今夢中になっていることを楽しみながら、夢中になってやり続けてほしい」。パンパンに膨れあがった甲子園には妻のベネッサさん、4人の子どもたちもいた。クラブハウスへと向かう通路で、ヒーローに送られるトラッキー人形をプレゼント。夢中で走り続け、気付けば虎の、家族のヒーローだ。

 かつてのようなパワー一辺倒ではなく、緩急や組み立てが利く。金本監督は「本当にピッチングを知っているなと。球種を使いながら、コーナーを突き、低めを意識している。その結果が5勝だと思う」とたたえた。メッセンジャーはまだまだ、野球に夢中だ。【池本泰尚】