苦い思い出を振りほどくように右腕を振った。ロッテ先発の石川歩投手(30)は初回、いきなり無死満塁のピンチを招いた。警戒していた4番ビシエドに走者をためて回してしまった。「死ぬかと思いました…」。息を整える。4球目。内角を突くストレートで三ゴロ併殺に。最大のピンチを、最少失点で切り抜けた。

 ナゴヤドームの公式戦登板は、ドラフト1位ルーキーだった14年以来。6回を16安打9失点と大炎上した。「一瞬よぎりました。腕を振ってもストライクが取れない」。めった打ちの記憶がよみがえる。だがあの時とは実績も経験値も違う。探り探りの立ち上がりから一転。スコアボードにゼロを刻んでいった。

 良い思い出だってある。富山・滑川高から中部大に進学。大学時代は春日井市に住んでいた。愛知は第2の故郷のようなもの。「当時はビンボーだったんで」と美食巡りもそこそこだったが、前夜は投手陣で決起集会を実施。「僕は登板前なんで酒は飲めない。でも楽しい感じでした」。大谷イチオシ店の焼き肉で心と体に栄養を注入した。

 5月19日以降の直近15試合に絞ってみれば、先発投手で白星が付いたのはともに6勝の石川とボルシンガーのみ。井口監督は「エースですからね」と6回2死一、三塁の勝ち越し機でも代打を出さず、7回までマウンドを託した。ビジター6連戦ウイークの目標は借金完済。石川は「ああいう回(初回のピンチ)がなくなればいいですけど」と反省を忘れなかったが、これでチームも自身も3連勝。先陣を切ってきっちり勝ちをもたらした。【鎌田良美】