大量リードを許したまま、試合が進んでいった。西武ベンチの辻監督の隣には、4回途中でマウンドを降りた多和田真三郎投手(25)の姿があった。監督は穏やかな表情も見せながら、多和田と言葉を交わし続けた。

 辻監督 座らせただけだよ。まあ、いろいろ聞いた。本人に「どうだったんだ?」とね。

 この日の登板は、普段とは違う意味合いがあった。後半戦開幕の節目。そこに、多和田を抜てきした。前半戦はチームトップの9勝。数字だけ見れば、当然の選択にも見える。だが、登板は週後半カードの第2戦にあたる土曜が多かった。前日の金曜は、菊池の主戦場だ。絶対エースがカード頭で相手打線の勢いを抑えてくれていた。投げ合う相手先発も、エース級ではない場合が多かった。そういう追い風も味方に付けた上での9勝だった。

 結果を出して自信をつけさせるという、首脳陣の狙いがあった。狙いは的中。満を持し、後半戦はカード頭、しかも週の頭を任せた。“独り立ち”の時だった。

 しかし、結果は散々。初回だけで3本の本塁打を許し、2回にもソロを浴びた。3回1/3、14安打11失点。序盤で相手打線に火を付けてしまい、チーム全体でも球団ワースト記録となる1試合8被本塁打。大敗だった。

 辻監督は「今日、任された意味を本人が分からないといけない」と厳しく指摘した。実は、2回を終えた時点で、コーチからは交代を打診された。それでも「投げさせてくれ」と、監督自らが続投を求めた。

 辻監督 性格もあるからね。多和田は気持ちがガンと表には出ない。それはいい。ただ、あいつの気持ちが出るところを見たかった。

 期待むなしく、4回にも失点を重ね降板。

 辻監督 1点目のホームランは、しょうがない。うちの打線なら、終わってみれば4点、取っている。どう切り替えるかなんだ。

 ベンチでは、恐らく、そういうことを言われたのだろう。多和田は「カード頭の自覚を持って、今後につなげたい」と言葉を絞り出した。辻監督も「次に期待します」。失敗を生かすしかない。【古川真弥】