ありがとう、新井さん-。広島新井貴浩内野手(41)が、20年間のプロ野球生活に幕を下ろした。日本シリーズはソフトバンクに1勝4敗1分けで敗退し、新井の現役最後の試合となった。8回、先頭打者の代打で登場し、本拠地の大歓声の中、遊ゴロ。34年ぶり日本一で花道を飾ることはできなかった。

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新井コールが幾重にも連なった。8回、代打で2-2から武田の直球をフルスイングした。遊ゴロ。歯を食いしばって一塁へ疾走。全力プレーを貫いた。家族が見守る中、これが最後の打席となった。9回は守り慣れた一塁に入り、終戦を迎えた。ベンチで腕組みし、ソフトバンクの胴上げを見つめた。

「最後まであきらめていなかった。もちろん悔しさもあるが、それ以上にみんなにありがとうという気持ちが強い」。敗戦直後はチームメート1人ずつと握手して感謝を伝えた。

体力、技術の衰えは感じない。食欲もそう。よく同席する球団スタッフは変わらぬ食事量に驚く。動体視力の低下もないという。「よくベテランが真っすぐを捉えたと思って空振りとか言うでしょ。でも自分は去年、12球団で真っすぐをヒットにする確率が一番高かったんですよ」。今季は変化球で攻められ「それを狙い打った」。まだまだ現役でやれる。でも、惜しまれつつ、ユニホームを脱ぐ。「自分が決めたことだから」と後悔はしていない。

金本前阪神監督とチームメートだった中堅時代、大目玉を食らった。チャンスで凡退し、悔しくてベンチにヘルメットを乱暴に置いた。試合後、尊敬する兄貴分から「あの行動は何や! 野球は1人でやるんとちゃう。チームの雰囲気が悪くなる」と殴られかけた。怒りを示すより先にやることがあると教えられた。それが今も生きている。チームは家族同然なんだと。

今シリーズ第5戦は7回に代打で登場。そのまま指名打者に入ったが、延長10回は代打曽根を送られた。「自分が代わったことじゃなくて、海成、頑張れと思っていた。頼むぞと。代打でバントってすごくプレッシャーがかかる。すごいよね。一発で決めるんだから」。悔しさよりも、後輩を全力応援。その姿勢が実に新井らしい。

「カープは家族のようなチーム。今みんなすごく結束している。引き継いでいって欲しい」。果たせなかった日本一は後輩に託す。記録にも記憶にも残る希代のスター。ありがとう、新井さん。感謝を込めた歓声は、いつまでも続いた。【大池和幸】

◆新井貴浩(あらい・たかひろ)1977年(昭52)1月30日、広島県生まれ。広島工-駒大を経て98年ドラフト6位で広島入団。05年に球団タイの6試合連続本塁打。07年オフにFAで阪神移籍。08年北京五輪では日本代表の4番を打った。同年12月から12年まで労組プロ野球選手会会長。

14年オフ、阪神に自由契約を申し入れ広島復帰。通算2000安打を達成した16年に打率3割、101打点でリーグMVP。05年本塁打王、11年打点王。ベストナイン2度、ゴールデングラブ賞1度。実働20年の通算成績は2383試合、7934打数2203安打(打率2割7分8厘)、319本塁打、1303打点。189センチ、102キロ。右投げ右打ち。