33歳の最年長右腕が、20年東京オリンピック(五輪)のエース候補に名乗りを上げた。「2018 日米野球」で侍ジャパンの開幕投手を務めた岸孝之投手が、4回まで2安打1失点と好投。80球の球数制限で5回途中3失点で降板したが、抜群の制球力と宝刀カーブで強力打線を苦しめた。2年後35歳で五輪出場なら、プロ投手最年長記録。

5回にこれが最後の打者と分かって投げるのは初めてだった。無死一、二塁。岸は、フルカウントからのスライダーでメリーフィールドを空振り三振に切った。80球の球数制限がある中で、腕を振り切った81球目。走者を背負ったままイニング途中での降板に「こういう形での降板となってしまい悔しい。投げきりたいですから」。隠せなかった悔しさは、先発としての矜持(きょうじ)だった。

初めて日の丸を背負ってマウンドに立った。09年WBCは1次候補入りも最終メンバー漏れ。14年の日米野球は右脇腹痛で辞退していた。プロ12年目の右腕も「緊張の方が強くて、楽しむ余裕はなかった」。それでも、持ち味を発揮できる。カーブで緩急をつけ、内外角へ正確に直球を収めてメジャー打線を翻弄(ほんろう)。球数が残り16球で迎えた5回もベンチの指示で続投したが「球数は自分では分かっていなかった」というほど没頭していた。

憧れとともに、侍ジャパンの一員として投げたい理由が、もう1つあった。7歳になった息子が野球を始めた。「日の丸をつけて投げている姿を見せてあげたいと思って」。今年で33歳。この後も日本代表に呼ばれる確約はない。だからこそ、この日の登板に向け、全力で調整を続けてきた。

35歳で迎える東京五輪へも期待を抱かせる投球。「チャンスがあれば」とだけにとどめたが、手応えも感じた。「今までやってきたことを変えることはできない。逃げることだけはしないように。ストライクゾーンで勝負出来てよかった」。チーム最年長右腕が、その背中でメジャーリーガー相手に存在感を示した。【佐竹実】