1枚のタオルで、1本の茶柱が立った。DeNAドラフト1位の最速152キロ右腕・上茶谷大河投手(22=東洋大)は、軸がぶれない。9日、横須賀市内のベイスターズ球場で新人合同自主トレ2日目が行われた。猛烈な海風が舞い込む悪条件でも、スリークオーター気味の右腕から放たれるボールは一切ばらつかない。即戦力に違わぬ片りんをのぞかせた背景には、センスあふれる工夫があった。

北風なんかに負けなかった。上茶谷は「しっかりと右足全体で体重が乗せられているのかを確認したくて」と時間をかけながら、60メートルの距離までキャッチボールを伸ばした。わざと2段モーション気味にしたり、左足を上げるタイミングを変えたりしながら、軸となる右の軸足にたっぷり体重を乗せた。ライナーの軌道は一定。「1位」の品があった。

右足の裏を意識していた。指全体にギュッと力を込め、タオルをつかむ意識でベイスターズ球場の黒土をかんだ。導き出した足裏全体の形は、独学によるものだった。

上茶谷 今まで軸足はつま先で立っていたりして、外体重や内体重になったりしていた。そこがバラつく原因でした。大学3年の時に変えて。いろいろ試していく中で、足の全部分で踏む形がしっくり来た。足でタオルをつかむ意識です。それからは、たとえ少しプレートに足を引っ掛けたとしても、ぶれることがなくなった。自分でいろいろと遊びながら、やっているうちにですね。誰かのまねとかではないですね。

プロの動画を研究する訳でもなく、本を読みあさった訳でもない。天性の感覚と相談しながら、阪神へFA移籍した西に似ていると評されたフォームを手にした。

東洋大の1学年先輩で、新日鉄住金鹿島に進んだ飯田晴海投手から「キャッチボールをもっと意識しろ」と助言された。「それまでは上半身への意識が強かったけど、そこから下半身の大切さに気付かされました」。何げない一言を頼りに軸足の改造へ着手。昨季、東洋大の3連覇に大きく貢献し、最高殊勲選手、最優秀投手に輝いた。

早ければ12日から始まる第2クールでブルペン入りする。「来週くらいには、座った捕手を相手に投げたいです」と自分のペースを崩すこともない。巨人から人的補償で西武に移籍した内海をほうふつとさせるすらりとしたシルエット。22歳の「タイガー・フット」が、力強くしなやかにプロの道を踏み出した。【栗田尚樹】

<投手のユニークなトレーニング>

◆アイデアマン 巨人内海(現西武)は08年オフに球速アップを目的に、重さ約1キロの鉄球を地面にたたきつける「砲丸投げトレ」を敢行。他にも下半身強化のために「トランポリン」、投球フォーム構築のために「ハンマー」を使ったトレーニングなども。

◆他競技取り入れ 広島は11年秋季キャンプで、握力アップや指先の感覚を養うため投手陣にテニスの軟式ボールを使ったトレーニングを課した。中日大野雄は15年オフに「カヌートレ」を実行。普段は鍛えにくい腹斜筋、体幹を鍛えた。

◆トレーニング兼清掃活動 楽天は06年秋季キャンプで筋トレも兼ねて本拠地球場周辺で約1時間のゴミ拾い。紀藤投手コーチの発案で岩隈ら11投手が地元ファンと清掃活動を行った。

◆異色トレ 南海吉田豊は、握力強化のために大分県の牧場で乳牛の乳搾りを行った。阪神下柳はプロレスラー桜庭和志とスパーリングを行う過激トレーニングを敢行。他にも自衛隊に交じっての自主トレ、週1回15ラウンドを行うボクシングトレなども。