【スコッツデール(米アリゾナ州)12日(日本時間13日)=木下大輔、田中彩友美】日本ハム上沢直之投手(25)が初の開幕投手を務めることが決まった。栗山英樹監督(57)が1、2戦の先発投手を「12日12時12分」に発表。上沢には大役を通達する手紙と、命がけの修行「千日回峰行」を達成した僧侶・塩沼亮潤氏の著書を9日に手渡しており、心身ともに成長した8年目右腕に3月29日オリックス戦(札幌ドーム)を託す。2戦目は金子弌大投手(35=オリックス)が古巣相手に先発する。

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米アリゾナキャンプ第3クール初日の2月9日。上沢は全ての練習を終えると、監督室に呼ばれた。一冊の本が手渡された。「本の最初の方に手紙が入っていました。『開幕戦、お願いします』と書いてあったので、うれしかったです」。記されていた日付は自身の誕生日2月6日。手紙の内容に身震いすると同時に、挟まれていた本の著者は見覚えがあった。「塩沼亮潤さんの本でした。前にテレビ番組で見て覚えていました」。

塩沼氏は生ける伝説の僧侶だ。山中を1日48キロ、年間約120日、9年をかけて1000日間歩き回る、過酷な仏教の修行「千日回峰行」を達成するなど数々の難行を成し遂げ、現在は僧侶の中でも徳が高いとされる「大阿闍梨(あじゃり)」と呼ばれる。栗山監督が尊敬し、対面を熱望する1人。命がけの修行で悟った境地が描かれる著書は、エースへの階段を上る上沢のためになる-と選んだはず。上沢は「日本へ戻る飛行機の中で読もうと思っています」と、じっくり読み解くつもりだ。

昨年9月に北海道を襲った地震明け最初の試合に先発した。自身も被災者で、調整不足ながら負け投手になった試合後、栗山監督に「初めて自分以外の人のために投げました」と言った。誰かのために身を尽くせる男が上沢だ。

16年の右肘手術からはい上がり、人としても成長したからこそ昨季はチーム最多11勝。「僕も初めての経験なので、こういう機会で自分がレベルアップするきっかけになれればと思います」と言った。開幕戦を、19年シーズンを野球界の阿闍梨になれる上沢に託す。

▽日本ハム栗山監督はこのオフに行った講演で、塩沼亮潤氏の著書から、次の言葉を紹介していた。「修行の世界でも常に精いっぱい努力したいと思って励んでいますが、心の成長というのはとてもゆっくりしたもので結果はなかなか出ません。どんな時も初心を忘れず、損得を考えず、心身を足して流れの中で清く正しく生活すること」。