えっ、やったことなかったの? 阪神ドラフト1位の近本光司外野手(24=大阪ガス)は意外にもプロになって初めてダイビングキャッチを解禁した。開幕スタメンに向けて「2番中堅」でアピールする俊足巧打の新人が、アマ時代のリミッターを外したのはなぜか。記者が独自の視点で取材する企画「リポート」で、阪神担当・真柴健(24)がそのわけに迫った。

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奇妙な光景を目にした。沖縄・宜野座キャンプでの全体練習後の外野グラウンドだ。ボールは全く飛んでこないが…。近本が飛んでいる。筒井外野守備走塁コーチが指示した方向へ、懸命にダイブ、ダイブ、ダイブ! 練習着の胸元に、緑の芝生をこすりつけた。

近本 今まではケガをすることも考えて飛ばなかったんです。いや…。飛べなかったんです。

社(兵庫)では基本的に投手で、関学大で本格的に外野手に転向。ダイビングキャッチは野球人生で初めてだった。不思議な練習には意図がある。「球際に強く、1歩でも守備範囲を広げる意味で取り組んでいました」。現状、虎の両翼はベテラン福留、超人糸井が君臨している。近本が狙うのはセンターで、カバリングを含めた広い守備範囲が求められる。

近本 どこまで追っていいのか、どこで止めないといけないのか。そこはオープン戦で試していきたい。

2月21日の広島戦(練習試合)では中堅を守り前方の打球にダイブ。届かなかったが、果敢に挑戦する姿を見せた。その後は筒井コーチから、ダイビングの基本について「シンプルに、一塁へ帰塁するように」と指摘を受けた。得意とする走塁に例えられた近本は「飛ぶ怖さはなくなってきた。まだまだ、もっとうまくならないといけないんですけど」と手応えも感じている。

落下地点へ一直線で向かう近本だが、プロの“球質”は社会人時代とは違うと語る。「滞空時間が長いですね。風の影響もあるかもしれないですけど、伸びます。全然、落ちてこないです」。打球が伸びるため、プロに入ってから追い方にも工夫を凝らした。

近本 打球から目を切って走ると、自分のイメージと外れたときに難しくなる。「8割の力」というのを筒井コーチから教わりました。10割で追うと目線がずれてしまうので。心にも余裕を持って反応良くやっていきます。

虎の中堅争いは、高山、中谷、江越らがひしめく。ポジション確保のため、けが恐れずダイブを解禁した。持ち味の俊足に、思い切りのいい打撃。そこに守備が加われば…。オープン戦は12日の中日戦(ナゴヤド)を含めて残り10試合。近本が開幕センターに向かって、真っすぐに飛び込む。

<阪神選手の主なダイビングキャッチ>

◆新庄剛志 優勝争い佳境の92年9月16日広島戦(甲子園)。両軍無得点の8回表2死満塁、山崎隆の右中間への打球にセンター新庄が果敢に飛び込み、スーパーキャッチ。9回に自らサヨナラ2ランを放ち、試合を決めた。

◆大和 14年10月17日のCSファイナルステージ第3戦巨人戦(東京ドーム)9回裏2死、亀井の左中間への打球をセンター大和が懸命に追い、つかみ取った。試合終了で阪神は日本シリーズ進出に王手をかけ、翌日も勝って決めた。

◆福留孝介 16年4月9日広島戦(甲子園)で、同点の9回表1死二塁、広島の代打松山が放った右中間への飛球に、右翼の福留が飛び込んだ。ショートバウンドキャッチと判定が下ったが、金本監督と福留が猛抗議。ダイレクト捕球でアウトと判定が覆った。