切れない。むしろラインの内側に戻ってきた。阪神ジェフリー・マルテ内野手(27)の飛球はまるで意思を持っているかのように、最後の最後、左翼ポール際ぎりぎり滑り込んだ。

2点を追う8回2死一塁。沢村の内寄り143キロ直球を強振。いったんファウルゾーンに向かったはずの飛球を、スライス気味に左翼席最前列にねじ込んだ。

「ポールの近くに飛んだからチャンスはあると思った。チームのために打てて最高の気分だね」

起死回生の同点5号2ラン。フェンスによじ登った左翼手重信のグラブからボールが逃げた瞬間、矢野監督は夜空に右拳を突き上げた。一塁ベンチ前、M砲が弓を引くようなポーズを披露すると、甲子園のボルテージは最高潮に達した。

「みんながいつもアクティブな気持ちでやれるようにと思ってね」。仲間を思い、26日DeNA戦で1発を決めた時にお披露目した本塁打ポーズ。実はこれ、母国・ドミニカ共和国の某有名コメディアンから拝借したギャグポーズだった。

かつて西武で一世を風靡(ふうび)した大砲デストラーデのポーズをまねたのか?陸上短距離界レジェンド、ボルトのポーズがモチーフか?あらゆる想像が飛び交っていたが「ドミニカの芸人がやっていてね」と照れ笑い。26日の試合後にはベンチ裏で同ポーズを知るガルシアと“共演”。今後、虎党にも一気に浸透していきそうな気配だ。

3点を追う5回に反撃の口火を切る左前打も放ち、来日初の猛打賞を記録。一塁守備でもゴロに飛びつき、失点を防いだ。何より左翼ポール際で切れなかった打球は、インサイドアウトのスイングが成り立っている証。「しっかりそういうスイングをするように心掛けているよ」と納得顔だ。

試合前時点で対戦打率1割6分だった右投手も攻略し、2戦連発でサヨナラ勝利に貢献。1発を放てば5戦全勝中。いよいよマルテの季節が近づいてきたのかもしれない。【佐井陽介】